自分の薬をつくる / 著者・坂口恭平 / 晶文社
アウトプットの効用
幼稚園から小学生、小学生から中学生、中学生から高校生、高校生から大学生、それぞれ時期が来たら少しずつステップアップしていく中であまり挫折感というものを感じたことはなかった。
なぜなら今振り返ってみるとわかることだけれど、どのステージもあくまで先生がいて何かの教えを乞うて勉強するという反復だったように思うから。いわゆるインプット重視型の日々だ。
けれど大学生から社会人になった途端にそれがアウトプット重視型の日々へと変化したことに初めは面を食らってしまったのだった。何をやっても空回り、気合を入れれば入れるほど、周りとの調和が微妙にズレていてなんだか空気中の酸素が自分の周りだけ少し少なくなっているんじゃないかと勘繰ってしまうほど。
これじゃあいかんとなった時に一つの習慣を作ったことを覚えている。それは今日あったことのベスト5を毎晩書き出してみるということ。そこに点数なんかをつけちゃったりして。5個なんで一つの項目に対して20点満点で数字をつけて合計すれば100点満点で今日はどんなものかを少し自分の頭の中から取り出してみてみることをした。
ベスト5といってもいいことばかりではなく、悪いこともある。でもそこで意識したのはどんな小さなことでもその日一日で出来たことを書くということだった。そんなことを習慣として3ヶ月も続けていくうちに、僕の仕事での空回りやテンパりというものは影をひそめ、その習慣をいつの間にかなくなり、すっかりと社会人の一員としての仲間に入ることができたように思っている。
本書『自分の薬をつくる』を読んだ時に、この自分の一日のベスト5を書き出すということはその当時のまさしく僕にとっての『自分の薬』だったのだろう。それを自分で勝手にその薬を編みだすことができたのでとてもラッキーなことだったように思うけれど、結構そうした求められることへの変化に自分自身が対応できなくて苦労してしまっている人は大勢いるのではないのかなと思う。
そんな時はこの一冊『自分の薬をつくる』を手にして欲しい。
本書はアーティストの坂口恭平さんが2019年に実際に行われたワークショップを誌上体験できるように編纂された一冊で、架空の医院”坂口医院”に人には理解しづらい悩みを相談し解決策を100本ノックのごとく提案していくそんな内容になっている。
「悩み」に対して強力な効果があり、
心と体に変化が起きる「自分でつくる薬」とは?
ヒントはアウトプットをすること。
気になった方は是非。
▼こんな方にぜひ読んでほしい!
・漠然とした不安がある
・やりたいことが見つからない
・やめられないことがある
・仕事がつらい
・人間関係で悩んでいる
・何をやってもうまくいかない
・誰とも理解しあえない
・話相手がいない
・人生に絶望している
・好奇心がない
・日々に関心がなくなった
・悩みで頭がいっぱいになっている
・何かやってみたいんだけど一歩が踏み出せない
・書きたいけど書けない作家
・作りたいけど作れない創作家
・アイディアが枯れてしまったプランナー
▼コロナ禍が蔓延している現代日本に向けて、
「非日常につける薬――あとがきにかえて」
も書き下ろし掲載。
<目次>
0:「自分の薬をつくる」ワークショップのための準備
1:オリエンテーション
(1)はじめに
(2)薬=日課
(3)しおり
(4)自分の薬をつくる――実例:私の場合
(5)つくるということ
(6)みんなアウトプットの方法を知らない
2:ワークショップ「診察」
▼企画書を書くという薬
▼「否定する力」の使い方
▼相談してみる
▼将来の夢は今すぐ叶えてみる
▼職業の枠を取っ払っていく
▼気持ちを深く汲み取れるのは特殊能力
▼やりたくないことをしない
▼声になっていなかったものを声にする
▼個人の悩み、なんてものはない
▼研究する
▼健康の証
▼適当なアウトプット
▼アウトプットについて、もう少し
▼自分にダメ出しをするということ
▼「自閉」という方法
▼書けないとき、つくれないとき
▼聞いてくれるひと、見てくれるひと
まとめ――私たちにとって最良の「薬」とは
非日常につける薬――あとがきにかえて
坂口恭平
1978年、熊本県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
2004年に路上生活者の住居を撮影した写真集『0円ハウス』(リトルモア)を刊行。
以降、ルポルタージュ、小説、思想書、画集、料理書など
多岐にわたるジャンルの書籍、そして音楽などを発表している。
2011年5月10日には、福島第一原子力発電所事故後の政府の対応に疑問を抱き、
自ら新政府初代内閣総理大臣を名乗り、新政府を樹立した。
躁鬱病であることを公言し、希死念慮に苦しむ人々との対話「いのっちの電話」を
自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。
12年、路上生活者の考察に関して第2回吉阪隆正賞受賞。
14年、『幻年時代』で第35回熊日出版文化賞受賞、『徘徊タクシー』が第27回三島由紀夫賞候補となる。
16年に、『家族の哲学』が第57回熊日文学賞を受賞した。
現在は熊本を拠点に活動。2023年に熊本市現代美術館にて個展を開催予定。
近刊に『cook』(晶文社)、『まとまらない人』(リトルモア)など。