精霊の王 / 著者・中沢新一 / 講談社
私たちの中にある「創造空間」を取り戻す
私が諏訪信仰に惹かれるきっかけとなった『精霊の王』。
本書で取り上げられる「シャグジ(ミシャグジ)=宿神」とは、日本列島にまだ国家も神社もない頃から、「古層の神」として存在していた精霊、スピリットであり、そしてそれは国家が出現し、神社や宗教が台頭することで片隅に追いやられ、闇に葬られ、居場所を失ってきた歴史があります。
けれども、この古層の神シャグジこそが、日本文化、日本的な精神構造の根底を支えてきた存在で、現代を生きる私たちの心の中にそっと住まわせておくべき精神性である、として、謎の多い「シャグジ(ミシャグジ)=宿神」のルーツを解読した一冊となっています。
それは猿楽や能の芸能の神として、変化と創造をおこす存在として、縄文的な野生の思考として…、様々な側面からシャグジが解釈されていますが、その中で信州・諏訪で古くから信仰されているミシャグジ神にも触れられていて、私は本書をとおしてより諏訪信仰に興味が湧くことになったのです。
疫病や異常気象、社会問題…、自分の中に一本の芯がとおっていないと簡単にぐらついてしまうような大変な時代を生きている私たちに、本書が述べている先人の精神性を知ることは、ひとつの安心につながるような気がしています。
私たちには「後戸」のような創造空間をたしかに持っていて、どんなにぐらついたとしても、宇宙や自然という大いなる力とつながっている。そんな心の拠り所ともなるような本書。
刊行から20年経っても、何度読み返しても気づかされることや思い出させてくれることが多く、普遍的で本質的。
人生を人間だけの世界ではなく、宇宙や自然と共に、生も死も分け隔てない世界の中で生きていきたい、と考える人におすすめです。
<目次>
プロローグ
第一章 謎の宿神
第二章 奇跡の書
第三章 堂々たる胎児
第四章 ユーラシア的精霊
第五章 緑したたる金春禅竹
第六章 後戸に立つ食人王
第七章 『明宿集』の深淵
第八章 埋葬された宿神
第九章 宿神のトポロジー
第十章 多神教的テクノロジー
第十一章 環太平洋的仮説
エピローグ 世界の王
現代語訳『明宿集』
あとがき
主要参考文献
解説 松岡心平
索引
中沢新一
1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。思想家。著書に、『野生の科学』、『大阪アースダイバー』、『アースダイバー』(桑原武夫学芸賞)、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)など多数ある