面影 book&craft

海と山のオムレツ

販売価格 価格 ¥2,145 通常価格 単価  あたり 

税込 配送料は購入手続き時に計算されます。

海と山のオムレツ / 著者・カルミネ・アバーテ、翻訳・関口英子 / 新潮クレストブックス



美味しい記憶



誰しも忘れ難い味の思い出というのが、こころのどこかにあるはずです。

僕はというと幼少期の毎年夏に信州・上田の祖父母の家に帰省し3週間から1ヶ月の夏を堪能した最終日の帰り際に祖母が帰りの電車で食べなと握ってくれた”カリカリ梅”のおにぎりがそれです。ご飯に混ぜ込んだカリカリ梅の酸っぱさが、楽しかった夏の日常からいつもの東京での生活へと切り替わる一つのアクセントになっているようで少し寂しい感覚と、でもやっぱり早く食べたい気持ちもあってお昼ご飯にはまだ少し早いタイミングだけれど、特急あさまの中でパクパクと毎回食べたのでした。


本書『海と山のオムレツ』はイタリア半島の最南端、カラブリア州出身の作家『カルミネ・アバーテ』が食をキーワードに自らの半生をたどった十六の短編が収められています。ページを捲ると幼少期に祖母と訪れた浜辺でのオムレツの思い出にはじまり、村での婚礼の宴にならぶ伝統料理、家族みんなで囲むクリスマスのご馳走、仕事のために移り住んだドイツや北イタリアでの食事と、料理の香りや味が伝わってきそうな食にまつわる著者の記憶が文字で綴られています。

食べることは、その土地を生きていくことと著者自身が語っているように、アルバニア人たちによって築かれた歴史的な文脈も残る土地でもある南イタリアのカラブリア独特の文化がミックスされた感覚も食の様子から伺うこともできます。

食は、味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚の五感を刺激してくれるもので、きっかけは食材や料理などかもしれませんが、著者自身の記憶が食をきっかけに蘇り、そこで一緒に過ごす人々や風景などの情景描写なども、あたかもそれが目の前で繰り広げられているかのように描かれているのも印象的です。


初夏から夏にかけてページをめくりたい一冊です。

生唾なしでは読み進めることは難しいので悪しからず。

そしてあなたの美味しい記憶も蘇ってくることを期待しています。



<目次>

ANTIPASTO A PUNTA ALICE

アリーチェ岬での前菜

La frittata mare e monti

海と山のオムレツ

PRIMI E ALTRI SAPORI

第一の皿と、そのほかの味覚

Il cuoco d'Arberia e il banchetto di nozze

アルベリアのシェフと婚礼の宴

La patata dal profumo misterioso

不思議な香りのじゃが芋

Le tredici buone cose del Natale

クリスマスの十三品のご馳走

Il sapore della cuntentizza

喜びの味

L'anguria gigante

巨大なスイカ

A favorire

一緒に食べていったら?

L'estate in cui conobbi Anna Karenina

アンナ・カレーニナを知った夏

SECONDI E ALTRI SAPORI

第二の皿と、そのほかの味覚

Il cuoco d'Arberia e la Villa Gustosa

アルベリアのシェフと、美食の館

Canederli

カネデルリ

Polenta con 'nduja

ポレンタとンドゥイヤ

Il miracolo dell'acqua

水の奇蹟

La casa dell'Ulivo di Luca

ルカのオリーヴの家

Aglio, olio e dignita

大蒜とオイルと自尊心と

Il cuoco d'Arberia e la ricetta segreta

アルベリアのシェフと秘密のレシピ

DESSERT A PUNTA ALICE

アリーチェ岬でのデザート

La cuzzupa con l'uovo rosso di robbia

クツッパと茜に染まった卵

Nota con dedica e brindisi

注記と献辞と乾杯と

訳者あとがき


カルミネ・アバーテ
1954年、イタリア南部カラブリア州の小村カルフィッツィ生まれ。少数言語アルバレシュ語の話される環境で育ち、イタリア語は小学校で学ぶ。バーリ大学で教員免許を取得、ドイツ・ハンブルクでイタリア語教師となり、1984年にドイツ語で初めての短篇集を発表。その後、イタリア語で執筆した『円舞』(1991)で本格的に小説家としてデビュー。『ふたつの海のあいだで』(2002)が高い評価を得て、『帰郷の祭り』(2004)でカンピエッロ賞最終候補に。2012年、『風の丘』で第50回カンピエッロ賞受賞。


関口英子
埼玉県生まれ。翻訳家。訳書にパオロ・コニェッティ『帰れない山』、ディーノ・ブッツァーティ『神を見た犬』、プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』、イタロ・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』、カルミネ・アバーテ『風の丘』『ふたつの海のあいだで』『海と山のオムレツ』など。『月を見つけたチャウラ ピランデッロ短篇集』で第1回須賀敦子翻訳賞受賞。

x