小さな店をつくりたい / 著者・井川直子 / 家の光協会
表現としてのお店
わたしたちがお店を営む理由は、お店の数ほどある。こと信州・上田に関していえば、近年個人経営の小さなお店が増えてきたように思う。前までだったら上田の街は一日あれば色々なお店を回れて満足できますよ、と案内していたけれど、最近は一泊ぐらいしないとお店を回りきれませんよね、なんてお客様との会話で出たりもする。
わたしたちが営む本屋であっても街の中にメインどころの本屋は4店舗、他業種だけれど本棚があり、購入できる場所は数知れず。そう考えてみると、街の本屋が消えていくと世間で言われて久しいが、かなり稀有な状況がそこにあるのだ。
メインどころの本屋に行ってみてもらえばわかることなのだが、本を使ってそれぞれが表現していることもあり、雰囲気が似通っていることも一切ない。競合他社なんて言葉はどこへやら、むしろ一緒に街を彩るピースとしての輝きを絶やさないように、ベクトルはいつだって自分自身の表現に向いているように感じている。そう、本屋を例に考えてみたが、上田の街の小さいお店は表現としてのお店を営んでいる方が多いのだ。
さて、いくら表現としてのお店だからといって、道楽の延長線というようなお気楽な感じではない、お店を始めるということは出ていくものは出ていくし、入ってくるものはなかなか入ってこないことなんてザラにある。ではどうしてそこまでしてお店をやるのかということをリアルに聞いてまとめているのが、本書『小さな店を作りたい』だ。
『dancyu』や『おとなの週末』などをはじめ、店づくりに関わる取材に長く携わり、独自の視点で、「食」にまつわるノンフィクションを書き続けてきた著者・井川直子さんが、10坪あまりの小さな飲食店を営む8人(組)を取材。「この店主にぜひ話を聞きたい」という熱い思いで、独立10年以内の8店を厳選した内容がまとまっている。店を始めるまでの経緯や、店にかける思い、店づくりや経営の工夫などを掘り下げ、書き下ろした充実の内容。それは、いずれ独立して店を始めたい人だけでなく、仕事や生き方に悩む人、物づくり興味がある人にも響くはずだ。
<目次>
1 カレーを作りたくないって日は一日もない:ダバ☆クニタチ
2 一等地の二等地:赤い部屋
3 生き残る道:デリカ
4 再開発とコの字酒場:ブンカ堂
5 飲食店は、素敵だな:nashwa ナシュワ
6 東京ってなんだろう?:サプライ
7 まずは自分が健全であること:中華可菜飯店
8 つないでいく、という役割:みよし屋
井川 直子
文筆業。1967年、秋田県生まれ。主に料理人、生産者などに取材し、食と酒にまつわる「ひと」と「時代」をテーマとしたノンフィクションを執筆。『dancyu』『おとなの週末』の連載をはじめ、雑誌やウェブ等に寄稿。著書に『ピッツァ職人』『シェフを「つづける」ということ』『昭和の店に惹かれる理由』(以上ミシマ社)、『東京で十年。』(プレジデント社)、『東京の美しい洋食屋』(エクスナレッジ)、『変わらない店』(河出書房新社)ほか。2022年、『シェフたちのコロナ禍』(文藝春秋)にて、第6回(2021年度)「食生活ジャーナリスト大賞 ジャーナリズム部門」を受賞。
