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初子さん

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初子さん / 著者・赤染晶子 / palmbooks




連続テレビ小説




実家暮らしをしていた時、特に幼少期などは家の中で流れているテレビが中心に、その日一日の時間の流れを把握していた。この時間帯であれば夕方のニュースのこの特集だなとか、お!笑っていいとも!が始まったからお昼ご飯でも食べるかといったように、自分が子どもの頃はまさにそんなテレビ全盛の時代、もしくはその終わりの華やかな時代だった。だから、その使い方というのは“時計”と同じようなものだったのだ。

小さな時によく見ていたテレビ番組はと聞かれれば、有名どころのアニメではなく、NHKの連続テレビ小説だった。15分間のドラマが毎日決まった時間に放送され、また13時前の15分間で再放送されるといった具合だ。
松嶋菜々子が主演した『ひまわり』や、もう少し前にやっていた安田成美が主演の『春よ、来い』などを特に覚えている。なかなか渋い趣味ですねという声が聞こえてきそうだが、ちょうど朝の連続テレビ小説が始まる8時15分になると、幼稚園に向かう準備や着替えをテレビを見ながらしていたのだ。だから今でも『春よ、来い』の主題歌で同名の松任谷由実の『春よ、来い』のイントロを聞くと、哀愁漂うイントロのメロディーにまだ来ぬ春を思うのではなく、早く着替えなきゃいけないと何故か思ってしまうのは、その当時の記憶が蘇ってくるせいなのだろう。


ここで連続テレビ小説の話をしたい訳ではなく、本書『初子さん』を読み進めていると、あの幼少期によく見ていた15分間の少し現実と異なる世界にグッと引き込まれていく感覚を思い出したからだ。


あんた、きっとうまいこといくで。

あんパンとクリームパンしか売っていないパン屋の二階で、初子さんは今日もひとりミシンを踏む。


文學界新人賞受賞デビュー作「初子さん」、傑作「うつつ・うつら」に単行本初収録「まっ茶小路旅行店」を加えた著者の原点となる小説集が本書。


子供の頃、一枚の布が人のからだを待つ洋服となるのに魅せられ、洋裁の職人となった初子さん。夢を叶えたはずなのに、かわりばえしない毎日がどうして、こんなにこたえるのだろう。ーー「初子さん」


わて、実はパリジェンヌですねん。京都の古い劇場で赤い振袖姿で漫談をするマドモアゼル鶴子。彼女をおびやかすのは沈黙の客席か、階下の映画館から聞こえてくる女の悲鳴か、言葉を覚える九官鳥か。ーー「うつつ・うつら」


路地にある社員三人の旅行代理店に勤める咲嬉子は、世界中の危険を知りながら今日も世界平和を装う。旅の果てで出会うのは蜃気楼か。すりガラスの窓の向こうに見える日常が蜃気楼なのか。ーー「まっ茶小路旅行店」


生きることのままならなさを切実に、抜群のユーモアをもって描きだし、言葉によって世界をかたちづくり、語りと現実のあわいを問う『じゃむパンの日』の著者の原点にして、そのすべてが詰まった小説集。



15分間くらい何もかも忘れて集中して物語に没頭してみるのをオススメしたい。




<目次>

初子さん
うつつ・うつら
まっ茶小路旅行代理店




赤染晶子

1974年京都府生まれ。京都外国語大学卒業後、北海道大学大学院博士課程中退。2004年「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞。2010年、外国語大学を舞台に「アンネの日記」を題材にしたスピーチコンテストをめぐる「乙女の密告」で第143回芥川賞を受賞。2017 年急性肺炎により永眠。著書に『うつつ・うつら』『乙女の密告』『WANTED!! かい人 21 面相』『じゃむパンの日』がある。

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