空間へ / 著者・磯崎新 / 河出文庫
建築という名の妄想
建築というものは不思議だ。私たちを空間として覆っている物体であるものの、そのプロセスを辿っていけば必ずその空間づくりに携わった建築家もしくは施主に辿り着く。それらが実態のあるものの考えなのかというと、もちろん形作るためにはしっかりとしたものに違いないのだけれど、ある種の幻想や妄想と書いてもおかしくない。それは人を痛めつけるものにならず、一昔前だと事情が異なるだろうが、環境面への配慮も欠かさないところを鑑みると、とてもポジティブな妄想と言えるのではないだろうか。そうした一つ一つの妄想、もしくはロマンが集積したものが街となり、都市となり、国になっていく。私たちは人の妄想やロマンの中に生きているのだ。
さて、本書は世界的建築家・磯崎新自身が。日付のついたエッセイ」と呼ぶように、その軌跡の第一歩となる伝説的な建築エッセイ。一九六〇年代を通じてさまざまな媒体に記された論文・エッセイがクロノロジカルに並ぶ。当時の困難な状況と対峙・格闘した若きイソザキの全記録がここにまとまる。
<目次>
都市破壊業KK
1960—現代都市における建築の概念/シンボルの再生/孵化過程/現代都市における空間の性格/広告的建築のためのアドバータイジング
1962—プロセス・プランニング論/都市デザインの方法/日本の都市空間/闇の空間
1964—虚像と記号のまち:ニューヨーク/世界のまち/死者のための都市:エジプト/迷路と秩序の美学:エーゲ海のまちと建築/《おもて》と《うら》の空間:モスク/陽炎のなかの幻影:インドのモスレム建築/イタリアの広場/《島》的都市の発想と歩く空間/路上の視角/座標と薄明と幻覚
1966—媒体の発見:続プロセス・プランニング論/幻覚の形而上学/マリリン・モンロー様/サモン・ピンクのエンバイラメント/スコピエ計画の解剖/見えない都市
1968—凍結した時間のさなかに裸形の観念とむかい合いながら一瞬の選択に全存在を掛けることによって組立てられた《晟一好み》の成立と現代建築のなかでのマニエリスト的発想の意味/梱包された環境/占拠されたトリエンナーレ/観念内部のユートピアが都市の 地域の ターミナルの そして 大学におけるコンミューンの構築と同義語たりうるだろうか/軽量で、可搬的なものたちの侵略/モビール・エイジの都市の光景/ほか
磯崎新
建築家。1931年大分市生まれ。1954年東京大学工学部建築学科卒業。丹下健三に師事し、博士課程修了。1963年磯崎新アトリエを設立。以来、国際的建築家として活躍するとともに、多くの国際的コンペの審査委員やシンポジウムの議長などを務める