世界をきちんとあじわうための本 / 著者・ホモ・サピエンスの道具研究会 / ELVIS PRESS
問いを拓くための表現
面影 book&craftのオンラインショップをご利用いただいた方には、必ず一筆箋でお手紙を添えている。実店舗ではありがとうございましたとちゃんと面と向かって言う機会がある。けれど、オンラインショップも本来なら直接お礼がいえたら最高なのだが、どうしてもそうはいかない。せめてもの感謝の気持ちを表現しているつもりだ。
そこの中でほぼ必ず書いている内容が、手に取ってくれた本が何かのきっかけになれば嬉しいということ。世の中、本当に色々な本があるし、その裏にはさまざまな考えや想いを持った著者や作り手がいる。だから直球でその内容に共感できるかどうかということはないだろうけれど、その中におさめられた一つの言葉が何かの行動に移すきっかけ、救いとなる何かになるかもしれない、そんな淡い期待を手紙というバトンを通して読み手にお渡しすること、そしてその選択肢の幅を広くすることが本屋の仕事で定めなのではないのかと考えているのだ。
本書『世界をきちんとあじわうための本』というタイトルを目にした時に、何か自分の中でピンとくるものがあった。僕たちは日々生活をし、時間をこの空間の中で過ごしている。けれど、このタイトルにあるようにそれをきちんと味わえているのだろうか。そんな問いかけをストレートに表現されている本書の存在自体がもうそこで意味を成し得ていそうなのだが、ページを捲るとそれは確信へと繋がっていくことだろう。
本書の中でつくるということは、作り手が見えている世界の表現でありそれは鏡のような作用をしており、この世界を映し出す行為によってそれを見た人の何かの知覚に触れ、解釈されそして次のつくるという行為に接続するきっかけになるという内容が描かれていた。まさしくそれはクリエイティブの連鎖であり、僕がオンラインショップの購入してくれたお客様に対して手紙を書く理由の一つにもなっている。
世界というのは僕たちの目の前に無数に存在し、色々な視点を持つことで無数にある世界の存在の選択の幅を広げてくれるのかもしれない。そんな風に感じるのだ。
日々何かに追われてしまっている方、世界をきちんと味わいたい方、そんな方たちの考えるきっかけになるお守りのような一冊。きっとあなたの問いを拓いてくれることだろう。
世界はあたりまえのようにあって、すでに誰もがあじわっているけれど、それをきちんとあじわおうとすれば、いつもと違った「何か」が必要です。本というものは、そうしたきっかけをあたえてくれるもの。この本は、どのページを開いても、特別なものは何もなく、呼吸や靴や掃除といった、ありふれた日常の話があるだけですが、世界とはそのようなものです。
この本をきっかけに、気づく、探る、指し示すの単純な流れに沿って、みなさんも、毎日の営みのうちにある、それらのあじわいに出会ってもらえればと思います。
(はじめにより)
<目次>
[0]私たちは、毎日、毎日、何をしているのだろう?
[1]気づく
[2]探る
[3]指し出す
[4]これからも、きちんと
ホモ・サピエンスの道具研究会
生活とともにある「研究」のあたらしいあり方を探るなかで生まれた、人類学者の山崎剛、木田歩、坂井信三を中心メンバーとするリサーチ・グループ。