その日暮らし / 著者・坂口恭平 / palmbooks
心配無用
高校生くらいから自分のこころの中の不安の許容量がある一定量を超えた時に体の不調が出るようになりました。きっかけは高校2年生の梅雨時期に当時入っていたサッカー部でトップチームとセカンドチームのちょうど堺にいた頃、自分のプレーが思うように行かず、呼吸がうまくできなくなったことがきっかけだったように思います。いわゆる自律神経がやられている状態なのだと思います。
幸い気持ちまで落ち込むことはないのですが、この自律神経がやられてしまったことがある種のカサブタのようになってしまい、社会人になってからも、仕事上の不安が大きくなってくると、そのカサブタが傷み始め、体が緊張でこわばり、謎の体調不良に陥ることがあるのです。大体はそうした切羽詰まったと勘違いしていることがほとんどなので、頭ばっかり使うのではなく、ランニングなど体を動かすことでスッキリして体調不良も時間と共にどこかへ行ってしまうものなのです。さらに移住してからは、畑仕事をやっているので、自然のリズムを感じながら程よい肉体労働があることでこうした心身の状態にはならないので、心配ご無用といった感じなのです。
躁鬱を抱えながら、作家、画家、音楽家、建築家などマルチな活動を行っている坂口恭平さん。本書『その日暮らし』に書かれている等身大の言葉を読んでいると『ああ、なるほど。そういった考えがあるのか』といったように、自分のこころの中の支えが解かれていくような感覚になってきます。
本書の帯にこんな言葉が書かれています。
”ずっと向き合えずにいた寂しさの正体がわかったことで、僕ははじめて、自分を信頼できるようになった。”
自分を信頼できていないから自信がなくなり、不安になってしまう。
では、どうしたら自分を信頼できるようになっていくのか、そんなことが坂口さんの日々の生活の子どもたちとのやりとりや生活の中から紡がれた等身大の言葉でエッセイとしてまとめられています。
コロナ禍にはじめた畑。熊本の土地とたいせつなひとたちとの出会い。うれしさも苦しさも分かち合える家族との昼夜をへて、坂口さんは自分のなかにいた、もうひとりの大事な存在と出会いました。
日々を綴るエッセイの先に待つ、あらたな境地へといたる生の軌跡。
人間が本来持ち合わせている深い優しさを感じることができる一冊です。
<目次>
畑をはじめて/四年目の畑/安全地帯/ふたりとの出会い/無償で助け合う/外の世界に夢中/鬱は大事な休息/先祖めぐり その一/先祖めぐり その二/先祖めぐり その三/生きるための絵/背中を押された娘の言葉/自分を褒める習慣/ゲンの背中を掻く毎日/アオにマッサージをする夜/不知火忌/その人の「町」/泉との出会い その一/泉との出会い その二/わらしべ長者/ゲンと虫歯/両親と小旅行/助けた亀は戻ってくる/建てない建築家/ゲンの良いところ/人生に無駄なし/プライベートパブリック/声を拾い集める/師匠の見つけ方/新しい病院の設計/海から呼ばれている/親友の優しさ/アオのアドバイス/やるだけやって怒られる/絶対に大丈夫/子どもが一番の薬/伯母が歩いた/イスタンブールは実家/自殺者をなくす方法 その一/自殺者をなくす方法 その二/ピザ修業でナポリへ/学校に行かない君へ/創作すること/鬱になる/脆弱だからこそ持続する/興味はないのか?/思いつきノート/手に預ける/助けてくれるみなさんへ/寂しさが笑顔に変わる
あとがき
坂口恭平
1978年熊本県まれ。2001年早稲田大学理工学部建築学科卒業。作家、画家、音楽家、建築家など多彩な活動を行なう。2004年に路上生活者の家を収めた写真集『0円ハウス』を刊行。主な著書に『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』『独立国家のつくりかた』『幻年時代』『徘徊タクシー』『まとまらない人』『苦しい時は電話して』『躁鬱大学』『土になる』道草晴子の漫画による『生き延びるための事務』など。パステル画をはじめ絵画作品を多数発表しており、2023年2月に熊本市現代美術館にて個展「坂口恭平日記」を開催。本作の装画も著者の水彩画作品となる。