ユリイカ 2024年6月号 特集=わたしたちの散歩 / 青土社
街の香りを求めて
面影 book&craftのある鷹匠町をはじめ、上田市の中心部には城下町旧町名が残っています。残っているといっても住所などにしてしまうと『中央』とかのようなかなりざっくりとした括りの中に入ってしまうし、使われることはないのですが、自治会名として残っていたり、夏に行なう祇園祭の際の神輿は城下町の旧町名ごと担がれたりします。私たちが上田に移住をし、そしてお店を開業するに至った経緯も城下町のこうした風情に寄せられていったところも多いのです。上田に来た際は是非車をどこかに止めて、街を散策してみるとそうした街の香りを感じ取ることがきっとできるはずです。
さて、突然ですが人はなぜ歩くのでしょうか?
本書『ユリイカ 2024年6月号 特集=わたしたちの散歩』はそんな問いかけへの手がかりになる一冊になっています。この一冊にはさまざまな文人、文化人が歩くことに関して綴った言葉を収録している内容になっています。
街歩きが趣味のひとつとして定着し、人々は街々の細やかな再発見に余念がない昨今。史跡や神社仏閣、飲食店などの観光資源からより微細に、街の構造的な成り立ちに入りこみ、土地の来歴さえ蘇らせることもできるでしょう。文学散歩や歴史散歩、建築散歩、目的ならぬ目的とともに歩くひとびともいます。地図さえ持たず、そぞろ歩き、目を凝らす、人間の営みがそこには尽くされているはず。考えてみれば私たちはいつだって散歩を始めることができるのです。
<目次>
❖対談
もうちょっと歩きますか――そぞろ未満の散歩 / かつしかけいた 柴崎友香
❖散歩を描く
坂を上り見晴らす / かつしかけいた
「ニューヨークで考え中」ドローイング / 近藤聡乃
FOCUS――「散歩する女の子」特別読み切り / スマ見
❖歩きはじめる
あまり散歩日和とは思えない日に / 與謝野文子
東中野・ニユーヨーク・四谷 / 大竹昭子
歩くこと、作ること / 小津夜景
書くことと散歩 / 大前粟生
横浜橋・不老町散歩日記 / 小指
❖遊歩者とともに歩く
「一九世紀の首都」パリのフラヌールたち――歩く感性と都市の思想史 / 朝比奈美知子
黒いプードルと植物学――ゲーテ研究者の脳内散歩 / 石原あえか
家に帰るカメ――ベンヤミン、遊歩のあとで / 田邉恵子
ディスクレな方へ――犬の散歩についての素描 / 東辻賢治郎
❖さまざまな街
街を散歩すること、散文的であること / 橋本倫史
いつも見つけたがる――散歩と街歩きのあわい / チヒロ
酒と徘徊 / パリッコ
旧町名、その儚さ / 102so
蓋と橋――暗渠を歩く / 暗渠マニアックス(吉村生+髙山英男)
❖歩行という制作術
散歩する詩人たち / 白岩英樹
ソローのWalkingと生き方としての哲学 / 齋藤直子
散歩への帰り道 / 串田純一
歩くことの「かたち」――リチャード・ロング、サミュエル・ベケット、サミュエル・パーマー / 山口惠里子
散歩と行進――日本文学における「意志薄弱」の歩行 / 坂口周
❖創作
新しい散歩 / 高山羽根子
❖散歩と不/自由
インペアメントとディスアビリティを散歩する / 近藤銀河
純粋な散歩はこの世に存在できるのか / 服部文祥
散歩と徘徊 / 春日武彦
思い出すための散歩 / わかしょ文庫
❖歩く身体
身体の具現――散歩における身体障害の問題 / 木下知威
歩くことは踊ること――二〇世紀初頭ドイツにおける〈躍動〉としての体操 / 後藤文子
道なき道の散歩――山中を歩くことについて / 古川不可知
散歩の技術(アート)――フレームをつくる/待つ / 青田麻未
石鹸の泡が消えるまで / 髙山花子
❖記憶された都市
下り坂について――街歩きの文明論 / 吉見俊哉
教養としての散歩 / 石川初
記憶を歩く、記憶と歩く――「日常記憶地図」の実践から / サトウアヤコ
治療の方法――私たちの声と体と感覚を一つ一つ手に入れること / 松橋萌
多様性に満ちた持続可能な社会を作り出す「散歩」のために / 谷頭和希
❖散歩はつづく
「文学散歩」の時代 / 岡野裕行
散歩番組を見るということ / 松山秀明
いぬの「おさんぽ」について / 垂水源之犬こと池田光穂
何者でもなく心を遊ばせる時間 / 山本貴光
❖忘れられぬ人々*32
故旧哀傷・本田幸太郎 / 中村稔
❖物語を食べる*39
内なる他者/外なる自己 / 赤坂憲雄
❖詩
恋 他二篇 / 鈴木康太
❖追悼*粟津則雄
哀悼・粟津則雄 / 中村稔
ペテロの否認 / 近藤洋太
「ブランショの小説論」を読んだ批評家 / 郷原佳以
❖今月の作品
三刀月ユキ・松波/和泉翔・栫伸太郎・坂田雅史 / 選=井坂洋子
❖われ発見せり
外国語とコミュニケーション / 西浦まどか
表紙・目次・扉=北岡誠吾
表紙・特集扉写真=かつしかけいた