distance / 作者・井手裕介、デザイン・Xiaojun Shi、寄稿・鈴木理策、プリンティングディレクター・篠澤篤史(サンエムカラー)
「間」の余韻
編集の仕事をしていると、色々な作品や出来事、会話をしている時でさえもそれらの「間」にある文脈はなんなのかということを考えてしまう。それは大袈裟な深読みといってしまえばそれまでなのだが、たとえ文脈の読み取り方や解釈が勘違いであっても、字面だけだったりその物の存在だったりをそのまま受け取るのとは別の世界を垣間見ることができるのはちょっとした豊かな気分なのだ。
かたや実務としての編集を行なっている時はその「間」を意識しながら文脈を編んく。その際に言葉や写真の配置を通してそれらを選んでいくという作業のように思えるだろうが、実際にやっていると何かを選び取るということよりも選ばないという意識に近しいような気がする。ともすると、その選ばれた、もしくは選んだことからこぼれ落ちた何かが「間」の余韻として残り受け手側が感じる部分なのかもしれない。
さて、本書『distance』は編集者として活動してきた作家・井手裕介さんが、2020 年に写真制作を開始して以降、継続的に取り組んできた視覚的な記録をまとめた初の写真集だ。
2020年春、新型コロナウイルス感染による嗅覚喪失という経験を契機に、知覚そのものへの疑念と関心が強まったという井手さん。そのタイミングで時間をかけた撮影行為を伴う、半世紀前につくられたカメラを手に取り、身の回りの風景や出来事を、即時性や説明性から距離を取りながら、時間をかけてフィ ルムに定着させた。本書は、その過程で生まれた写真群を、一定の物語や結論に収束させることなく、一冊の中に静かに並置したものである。
マガジンハウスのCasa BRUTUSなどの編集などで活躍し普段の仕事は言葉を武器に活動している井手さんがあえて文字ではない写真で勝負しているところがまず驚いた。けれどページを捲ると前後関係の文脈性の作り方はまさしく編集者のエッセンスを感じ取れることだろう。
何気ない風景を捉えた一瞬がこんなにも自分のこころに残るとは。
そもすると嗅覚が一時的に無くなってしまったということによるある種の感覚の「間」のようなものが、写真に特別な余韻をもたらしているのかもしれない。
写真家・鈴木理策さんの寄稿と合わせて見ると深みが増すはず。
ハードカバー・クロス装・ホローバック / 112 ページ / 200mm×250mm
写真:井手裕介
デザイン:Xiaojun Shi
寄稿:鈴木理策 プリンティングディレクター:篠澤篤史(サンエムカラー)
発行:2025 年 12 月




