日々、発酵くらし / 著者・岡本よりたか / 内外出版社
共にあるという喜び
自然農の畑をやっていると、側から見ると野菜を栽培しているかのように思われるのだけれど、当の本人にしてみれば自分自身は畑にいって野菜たちの生育状況をただただ観察し、状況がイマイチな場合は往々にして畝に敷いている草の量や敷き方を変えることで風の流れや水の流れをうまい具合に調整しているだけなのだ。そしてその調整がうまくいっているのかどうかというところを翌日以降、日々の観察の中で把握しているのだ。
では何が野菜を育てているのだろうか。農薬はもちろんのこと、肥料も与えないというやり方や姿勢であるため、普通の方ならイメージする養分なるものを野菜たちはどのように摂取しているのかと不思議に思われるかもしれない。不確かなことが多いのでその真理とまでは言い切れないけれど、養分を野菜たちに橋渡ししているのが微生物なのだということが近年明らかになってきている。
自分が唯一手を施している草の調整が、そこの水分量や空気の流れ熱の循環を結果調整していて、そのことで土の中の微生物たちが活発に動き回れる状況をデザインしていたというわけなのである。
目には見えない微生物と日々を共にし、一つの野菜を育てていると考えると、作業的には一人でやっているものの、仲間がそこにいつもいるようでなんとも頼もしく思えてくる。
本書『日々、発酵くらし』の中で「身土不二」という言葉に出合った。意味するところは身体と土はほぼ同じ微生物で構成されているということなのだが、私たちの中の微生物を生かすも殺すも、畑でいう草の役割でもある食べ物を考え直すことで自分の健康を省みる必要があるのではないだろうかと思えてくる。今改めて何と共に生きていくのかということが問われているのかもしれない。
さて、本書『日々、発酵くらし』は、「自給農」を実践する大人気の無肥料栽培家・岡本よりたかさんが書き下ろした「発酵保存食」の作り方と、微生物たちが教えてくれる“これからの生き方”を論じた一冊だ。暮らしを豊かにする考え方とその実践方法をわかりやすくまとまっている。
通り一遍の発酵レシピ本とは一線を画し、岡本さんが自力で生きていくために四苦八苦する中で改めて発見した発酵への考え方が実体験ベースで描かれているので、内容もすんなりと入ってくる。まさしく読者の思考が発酵されている状態なのではないだろうか。微生物の活性を担う発酵という概念は、元来日本人の生活の中に自然と育まれているものなのだから尚更なのかもしれない。
発酵に興味がある方、これからの生き方を模索している方に一読いただきたい一冊。
僕の本業は「無肥料栽培」としての農家であり、無肥料栽培を広げるための活動を積極的に行っています。無肥料栽培は農薬を使用しないうえに、市販されている化学肥料や有機肥料も使用しない農業であり、一般的には「自然農」と呼ばれることが多いと思います。
しかし僕の農業は、誰かのために野菜や穀物を作るとか、換金するために作物を作ると言う考え方とは一線を画しています。僕の農業は「自給的農業」と言い換えることができ、僕はそれを「自給農」と呼んでいます。自分のために作物を作り、その作物を自分の食料にして生きていくという生き方でもあります。
(本文「はじめに」より)
なぜ保存食が大事なのか、なぜ発酵調味料が大事なのを僕は知ってほしいのです。ただ保存食の作り方を知ったとか、発酵調味料の作り方を知ったというだけでは、僕は長続きしないのではないかと思っています。いざというときに困らないためにも発酵保存食を作り、あるいは作れないまでも、作り方の知識は得ておいた方がいいと思います。これからの人生を幸福に生きるために、発酵保存食を作ってみて欲しいと思います。
(本文「おわりに」より)
<目次>
[はじめに]なぜ今「発酵保存食」が大切なのか?
[Chapter1]微生物の働きと農的人間の活動の共有点
[Chapter2]四季折々のスタンダードナ発酵調味料「醤油」
[Chapter3]四季折々のスタンダードナ発酵調味料「米糀から作る味噌」
[Chapter4]四季折々のスタンダードナ発酵調味料「その他」
柿酢/豆板醤/コチジャン/発酵生姜/トンチミ/塩麹/麹キムチ ほか
・中島デコさんによる発酵醬
[あとがき]「分かち合う」ことの本質
岡本よりたか
1958年、福井県出身。岐阜県郡上市在住。無肥料栽培家・環境活動家。「たねのがっこう」主宰。TVディレクター時代、取材を通して農業の環境や健康への破壊的ダメージを知り、またITエンジニア時代、効率化という名の非効率な経済社会のシステムを知り、40歳半ばで、社会に背を向け、山梨県北杜市に移住して山暮らしを始める。その後、自然農法を学び、それをヒントに、自分なりの農法を確立しながら農業に勤しむも、生活苦に陥る。しかし、そのお陰で、「人は水と太陽と空気と種さえあれば生きていける」という真実に出会うことになる。それ以来、経済社会の不自然さを訴える講演活動を開始。当時、自家採種を禁じる遺伝子組換え種子のことも知り、世界を制するバイオテクノロジー企業への警告の意味で、SNSにて、種に関する情報発進も始める。現在は、岐阜県郡上市に再移住し、自家採種の大切さを訴えるセミナーや講演を開催しながら、生き苦しいこの世の中を生き抜くための手段としての、自然農法の普及にも努めている。無肥料栽培セミナーや講演活動は年間150日ほど全国にて開催しており、その傍ら6反の畑で農業も続けている。また、民間のシートバンクである「たねのがっこう」を主催し、農業スクールなども開催している。最近は、次世代の農家を育成する「耕師(たがやしし)」制度を発案している。著書に『おひとり農業』(小社刊)、『種は誰のものか』(キラジェンヌ出版)、『無肥料栽培を実現する本』(笑がお書房)、『野菜は小さい方を選びなさい』(フォレスト出版)などがある。


