ただいま装幀中 / 著者・クラフト・エヴィング商會 / 筑摩書房
未来への扉
夫婦の役割というのは絶妙だと思う。その夫婦にしかわからない阿吽の呼吸がある。明確にルールを決めたわけではないけれど、自ずからその形に収まっていったという表現が適切だろうか、落ち着くところに最終的に落ち着くのだ。
僕たち夫婦もそう。夫婦でお店を営んでいると、それがもっと明確になってくる。アイデアを出し、それを文章に落とし込み、ヴィジュアルを考え、作り、伝えていくプロセスにはお互いの得意不得意があるけれど、それを二人で補い合いながら毎度形にしていくのだ。互いが互いのことを知り、手を差し伸べるタイミングなどルール化できないことだらけなのだ。
さて、そんなことを振り返るきっかけになったのは、クラフト・エヴィング商會の『ただいま装幀中』を読んでのこと。あたたかい奇想が愛され続けている『ないもの、あります』のクラフト・エヴィング商會の吉田夫妻が装幀の仕事をはじめて30年。思いつき方から共作のルールまで、創作の秘密を語った一冊。
ページを捲ると、「あーそういうやりとりあるよね」とか妙に共感してしまうところが多くある。二人の対談形式で中身が進んでいくのでそうしたことも腑に落ちるのかもしれない。彼らの仕事は、著者や編集者と読者をつなげる役目であると本書では語られている。そしてその間に扉を押したくなるような装幀を施し、未来に向かって開けてもらうようなリボンをかけた小箱をプレゼントするように仕立てるという表現がまたたまらない。
夫婦二人で何かを作っていなくとも、夫婦二人の絆を考えるきっかけになる一冊。
<目次>
1 本は平面でありながら立体でもある
――どうして装幀の仕事をすることになったか
2 つかず離れずというのがちょうどいいんです
――どんなふうに二人でデザインをしているか
プリマー新書*装幀セレクショ
3 リボンをかけた小箱をプレゼントするように
――「ノイズ」と「ほつれ」と「にじみ」
4 「何もしない」っていうのは、どうでしょう
――「過程」があってこその「結果」なんです
「あとがき」の代わりに
クラフト・エヴィング商會
吉田浩美と吉田篤弘による制作ユニット。著書に『ないもの、あります』(2025年本屋大賞「超発掘本!」)『クラウド・コレクター雲をつかむような話』『すぐそこの遠い場所』『おかしな本棚』がある。吉田浩美の著作として『a piece of cake』、吉田篤弘の著作として、『月とコーヒー』『おやすみ、東京』『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『遠くの街に犬の吠える』『雲と鉛筆』など。著作の他に装幀の仕事を数多く手がけ、2001年、講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞している。ちくまプリマー新書の装幀を創刊より担当。