面影 book&craft

円相 8

販売価格 価格 ¥1,100 通常価格 単価  あたり 

税込 配送料は購入手続き時に計算されます。

円相 8 / 著者・小倉健太郎、佐々木晃也、高橋香苗/ DOORbooks



今に吹き込むこと



幼児の子どもと遊んでいると、一時的にごっこ遊びということをやる。その典型例がおままごとかもしれない。現実にそこには存在していない架空の設定の下、各々がその役割を“演じて”物語を作っていく。ただこの“演じる”というのは、大人や俳優たちがお芝居としてその役を“演じる”のとはわけが違う。どこか本当に人格や意識が憑依してしまったかのようにそれぞれの主人公として立ち現れてくるのだ。そして面白いことに、その遊びを止めた瞬間に魔法が解けたかのように、その設定自体、役自体から抜け出し、元の本来の自分に引きずることなくすっかりと戻っていく。一連の状態はまさに、何かが吹き込まれ、そしてそれが抜け出していくということなのだ。

さて、なぜそんなことを思い浮かべたかというと、本書『円相 8』で小倉健太郎さんが書いた「誘惑されるものたち」というコラムを読んだからだ。人間の「欲望」の本質への接近に、ウィトゲンシュタインの言語ゲームを省察する内容。その具体例に小林秀雄の随筆「人形」を借りて見ていくのだが、小倉さんが繰り返し展開するエゴであるかセルフであるかの発動の源泉の違いが、「欲望」という言葉の解像度を引き上げてくれるはずだ。言葉では表現しきれないまさに現代社会でよく出会う暗黙というやつをとても丁寧に考察してくれている。それはそのまま「己を虚しくする」ことでそこへ善きもの、輝かしいものが逆に注ぎ込まれる。「今に吹き込む」と小倉が注目した言葉は自分が立つ地点からの拓きとなってそれは図らずとも自己を救うことにつながるのだろう。

円相は毎回このように言葉にできない浮遊している何かに執筆者それぞれが向き合い言葉を使って表現している、いわば言葉の総合芸術のような一冊に仕上がっている。確かに何度も読み返して自分なりの解釈を加えるという作業も伴うのでなかなか難しいかもしれない。けれどその工程を経たのちに自分の中に確かに立ち上がってくる手応えは一体なんのだろうか。


そんなことを探しに今号もページを開いていただきたい。



<目次>

誘惑されたものたち 小倉健太郎

スピノザの追跡 佐々木晃也

Mの微笑み 高橋香苗
小説 神主のはなし 高橋香苗

小説 ふるさと 高橋香苗

道ゆく言葉 本の中から 高橋香苗

語らうこと 高橋香苗

編集後記



小倉健太郎

松江市生まれ、島根県雲南市在住。

「たべるをつくるしぜんとつながる」をもトーとした、お米の加工品の企画販売を行「宮内舎」という会社を夫婦で営んでいる。

米農家。集落支援員。



佐々木晃也

北海道出身、京都在住、

大阪大学大学院人間科学研究科 共生学系共生の人間学博士後期課程

博士課程では、スピノザの倫理学を「善の概念化」と「探求の倫理化」という二つの観点から研究しています。

また「企業内哲学」と呼ばれる 2010年代頃から前景化した国際的動向の調査等を行っています。



高橋香苗

島根県在住。本屋兼ギャラリーDOORを自宅で営む。中庭にあるけやきが作る木痛れ日が最大のアピールポイント。2020年から書いた小説を手作り本にして毎月刊行したのを機に2021年から小倉と円相を出している。

x