CAMINO / 中川龍平(Ryuhei Nakagawa) / Launch Packs
一期一会の瞬間
『星の旅人たち』という映画を観た。世界遺産サンティアゴ・デ・コンポステーラへの約800kmをとある出来事により亡くなってしまった息子のバックパックとその想いを背負って巡礼の道『Camino de Santiago(カミーノ・デ・サンティアゴ)』を歩くという内容なのだけれど、そこで出会う人たちの個性的なキャラクターや関係性、その人たちそれぞれの歩いている理由も相まって、人生という道についても考えてしまいたくなるような、そんな映画だった。
道を歩く理由は、その道を歩く人の数だけある。
この『道』を『人生』という言葉に置き換えてみると、人生を知った気になれるから不思議なものだ。けれど言葉の意味としては、本当にそうだと思う。人それぞれ何か目的があったり、もしくはなかったりするのだろうけれど、改めてそういうことを人に聞いたりしない限り、それらを知る由もない。
本書『CAMINO』は写真家の中川龍平さんが、まさしくこの巡礼の道『Camino de Santiago』の約800kmを1ヶ月間歩く中で出会った人や出来事、風景をおさめた写真集。南仏サン・ジャン・ピエ・ド・ポーを起点に、ピレネー山脈を越え、都市と乾燥地帯を横断しながら、スペイン北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラへと至る中川さんのこの旅のテーマは「歩くこと」を通じた自己と世界との関係性の再考と謳われている。食べかけのお皿や途中で出会ったであろう旅人の横顔、動物たち、写真を眺めていると、リアルに中川さんの目線でこの巡礼の道、いや約1ヶ月間の中川さんの人生の断片を覗かせてもらっているような感覚になるはずだ。
きっとその巡礼の道は今もあるし、今もその道を誰かが歩いていることだろう。
だけれどこの写真集に収録された風景や状況というのは、体験したこの一瞬しかないはずだ。冒頭の『道』と『人生』の言葉の入れ替えが可能であれば、人生も自分と世界がどのように関係し、どのような体験を享受できるかによって、その彩りも変化してくことだろう。
道も人生も、一期一会のその瞬間を見逃すな。
※ポッドキャスト『面影飛行』では、さらに詳しくこちらのアートブックについて語っています。あわせてお楽しみください!
Launch Packs
仕様:225 x 220 mm ソフトカバー 116ページ