古本屋タンポポのあけくれ / 著者・片岡千歳 / 夏葉社
本への愛情
本屋を始めて2年が過ぎ3年目に入りました。まさか自分の人生の中で実店舗の本屋を始めるなんて夢にも思っていなかったのですが、実店舗の本屋というものはamazonなどのオンラインショップにはない、お客様と本との出会いの場なのだとつくづく感じます。その出会いの場の水先案内人として自分なんかはいるのかなと思います。
お客様自ら自分の欲しい本がある方はその方の感性にお任せして、そして何となく立ち寄ってくださった方には色々とお話する中で感じ取ったものと関連する本をご紹介する。そんな目には見えない出会いをエスコートしていくことが実店舗の本屋には求められているのだと最近では理解しています。
実店舗オープン数ヶ月前の頃、自宅の一室を全て本の在庫の入った段ボールで床が見えなくなるほどになった光景を見て、少し絶望感を味わっていた頃に比べればだいぶ本への愛情が増してきている今日この頃です。
さて、この本への愛情を持っている方というのはもちろん上には上があるわけで、本書『古本屋タンポポのあけくれ』は1963年に著者の片岡夫妻が高知で開業した詩集を軸にした古本屋タンポポを巡る随筆をまとめた一冊です。本書は妻の片岡千歳さんがメインに筆を取られているのですが、60年ほど前のことなのに全ての描写が目の前に映っているように感じられるほど、情景描写が美しく描かれています。そして片岡千歳さんの本への愛情、そして文字や行間から優しさやぬくもりを感じることができることでしょう。
片岡夫婦で経営した古本屋「タンポポ書店」はすでになく、著者の片岡千歳さんも、夫の片岡幹雄さんも他界されています。
けれど、この本を読めば、いつでもなつかしい古書店を訪ね、詩を愛するご夫婦に会うことができます。
そして読み終わった頃には、心の中に小さなタンポポの花が咲いていることでしょう。