「食の職」新宿ベルク: 安くて本格的な味の秘密 / 著者・迫川尚子 / 筑摩書房
こだわりの現実
食に関する本というとレシピ本などを思い浮かべる方も多いはずです。しかし完成形の写真があって、その工程が写真の近くに書かれているという定型のフォーマットでは伝えきれない食の魅力が抜け落ちてしまっているのではないのかと、本書の著者・追川さんは語ります。
1970年に純喫茶として新宿駅構内のルミネの地下にオープンした『新宿ベルク』。本書はこの『新宿ベルク』の副店長でもある追川尚子さんが仕事としての食、個人の趣味としての食、人生のテーマとしての食という観点で、『新宿ベルク』の味づくりの秘密がまとめられています。
お世辞にも広いと言えない『新宿ベルク』のスペースの中で自分たちが理想とする食事の味と店舗経営をどのように両立させていくか。例えていうならば、駆け出しのバンドマンたちが描いた夢や理想的な音楽と現実の生活をどのように折り合いをつけて成立させていくかということにも通じてくるかと思います。そういう意味でも本書に書かれていることはとてもリアルです。アマチュアリズムといえる常に挑戦し続ける精神で、目の前のことにしっかりと自分たちの目で捉えて着実に歩んでいく術が語られています。
追川さんの人柄も文字に表れていて、その気迫ともいえる歯切れの良さに、モジモジと一歩を踏み出せないでいる背中をポンと押してもらえるような一冊です。
解説には、『孤独のグルメ』の原作者の久住昌之さんです。
<目次>
プロローグ 食で生きる
第1章 お店の味をつくる(ベルクの味はどうやって生まれるのか?;ただのビールが美味しいわけは?;味の輝きを保つのは40人のスタッフ・アルバイト;15坪という逆境が生んだ知恵と工夫)
第2章 職人さんと「味」でつながる―三大職人の仕事術(町の天才を探そう!;パン職人の哲学;ソーセージ職人の眼力;コーヒー職人の豊かさ)
第3章 お店は表現だ!(味には「形」がある;食と健康;料理と表現;お店に学ぶ)
迫川尚子
ベルク副店長。写真家。種子島生まれ。女子美術短期大学服飾デザイン科、現代写真研究所卒業。テキスタイルデザイン、絵本美術出版の編集を経て、1990年から「BEER&CAFE BERG(ベルク)」の共同経営に参加。商品開発や人事を担当。きき酒師、調理師等の資格を持つ。日本外国特派員協会会員。現代写真研究所講師。