共鳴するからだ: 空間身体学をひらく / 著者・片山洋次郎、田畑浩良、藤本靖 / 晶文社
社会と自分と自然体
古い記憶を辿ってみると社会の空気感というものが変わった瞬間というのを短い人生ながら感じることがあります。振り返ってみると1995年のオウム事件や阪神淡路大震災、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ、2011年3月11日の東日本大震災など、この事件や天災を機に社会の空気感というものがそれ以前と以後では全く異なる印象を感じられるのです。この時代は今のようにスマートホンやSNSなども普及していなかったということもあるので、情報源がテレビと新聞といった限られたものから発信される内容によって社会生活を営む私たち一人一人の意識や認識が世の空気感として作り上げてしまっていたのかと思うと、メディアというものは諸刃の剣なのだとつくづく感じさせられます。
本書『共鳴するからだ』は、ボディワーカーとして活躍されている藤本靖さんが聞き手となり、整体師の片山洋次郎さんと藤本さんのボディワーカーの先輩にあたる田畑浩良さんとの対談により、人間に備わったからだそのものの不思議や、社会の空気感とからだの関係性について解き明かしていく内容となっています。
本書でも触れられていますが、身体性を失ったからだは「無感覚」もしくは「過敏」になっていくそう。一見相反する言葉のように思われがちですが、根本の部分は自律神経の「凍りつき」が原因なのだそう。そして社会構造や関係性が複雑化していくほど、その「凍りつき」を解きほぐしていくのが何やら厄介なのだそうなのです。
では、どうしていけば良いのか。
本来備わっている「自己調整力」(自らが整う力)を引き出す方法、「間合い」の全容が一冊にまとまっています。三人のボディワーク施術者=「間法(まほう)使い」による、数十年の年月をかけた探求が明らかになる内容です。
・リラックスできない
・漫然と不調
・朝から疲れている
「からだの力」を取り戻し元気になりたい、すべての人へ届ける智慧と言葉が詰まった一冊です。
<目次>
▼1:からだの深みを見つめていたい――片山洋次郎(聞き手: 藤本靖)
近代社会の限界と日本人の身体/息苦しさはどこから来るのか
日本人の胸はなぜ固いのか/「困った…… 」が発動している日本社会
施術は問題を解決するのか/「内臓感覚」と「覚醒状態」を取り戻す方法(他)
▼2:交流するからだ――田畑浩良(聞き手: 藤本靖)
日常生活で「最初の場」をどう探すか/「逃げる」ということ
「イールド」とは何か/体内における情報の伝達とボディワーク
コントロールしない呼吸を迎える/グラウンディングとイールディングの違いとは(他)
▼3:鼎談 空間から身体と感覚を考える――空間身体学宣言
空間の緊張も共鳴する/身体があることで空間が生まれる
動的感覚が流れる空間へ/物理的距離を超えてからだは共鳴する
重力方向と水平方向から身体を考える/根源的な安心感をもたらすもの
――イールド原論/「何も起きないポジション」を探して(他)
片山洋次郎
1950年川崎市生まれ。東京大学教養学部中退。身がまま整体気響会を主宰。20歳代半ば、自身の腰痛をきっかけに〈整体〉に出会う。その後「野口整体」の思想に触発されながら独自の整体法を創り上げる。21世紀を、身体がものを言う時代ととらえ、身体の現場から、「身も心もチョッと楽になる方法」を提言している。著書に『整体から見る気と身体』『自分にやさしくする整体』『日々の整体』(ちくま文庫)、『骨盤にきく』『身体にきく』『女と骨盤』(文春文庫)、『生き抜くための整体』(河出文庫)、『呼吸をふわっと整える』『姿勢をゆるめる』(河出書房新社)などがある。(web「身がまま整体気響会」note)
田畑浩良
1963年生まれ。ロルファー™。(株)林原生物化学研究所(現ナガセヴィータ株式会社)に勤務した後、米国コロラド州ボールダーに本拠を置くロルフ・インスティテュートでロルファー養成トレーニングに参加し、1998年にロルファーとして認定される。ロルフィング®セッションの提供を中心に活動中(rolfinger.com)。2009年には、同インスティテュートのロルフ・ムーブメント部門の教員として認定され、以後ロルファーの継続教育、特にロルフ・ムーブメントプラクティショナー養成に関わる。その認定プログラムを日本及び米国、欧州でも提供。また、クライアントの自発的変容や自己組織化を促す「イールドの技法(Yielding Embodiment® Orchestration)」を開発し、その担い手も養成中。詳細はyielding-embodiment.comにて。
藤本靖
環境神経学研究所代表、日本身体性学協会会長。長野県立大学大学院客員准教授(神経生理学・ボディワーク)。ボディワーカー。東京大学大学院身体教育学研究科修了。大学では途上国の開発について学び、卒業後は政府系国際金融機関にて東南アジア、アフリカにおける政府開発援助(ОDA)の業務に関わる。その日々の中で、人間の「心と身体の関係」というテーマに出会い、大学院に戻り「神経系の自己調整力」について研究、ボディワークの専門家として「快適で自由な心と身体になるためのメソッド」を開発。『疲れない身体をいっきに手に入れる本』(講談社)など、著書多数。現在は、ボディワーカーとしての活動にくわえて、企業の研究開発事業を受託、自律神経研究をベースとした商品開発などの社会実装にとり組む。【環境神経学研究所】https://www.neural-intelligence.company/
【日本身体性学協会】https://soma-japan.org