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湯気を食べる

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湯気を食べる / 著者・くどうれいん / オレンジページ




厨に立つということ




自分が初めてキッチンに立ったのは、母親の料理の手伝いでジャガイモかりんごの皮を包丁で剥くという作業を手伝った時だったように思う。まだ手つきがおぼつかない様子を母が注意深く見ていて、逆に見られると上手くできないもどかしさを抱きつつも作業が進むにつれて段々とコツを掴んでいき、上手に皮を剥くことができた。今となっては本当に大した技術でも無いけれど、自分で包丁という道具を操れ、調理のスタートラインに立つことができたことがとても誇らしかったように思う。

自分の息子も最近、キッチンをウロチョロすることが多い。彼の中でも自分が食べるものがどのように作られているのかということ、そして食べ終わった食器がどのようにまたきれいになっていくのかというプロセスを感じたいのだろうと、ともするとただの大人のすることへの好奇心というところで終わってしまいそうなところだけれど、あえて肯定的にそして可能性を広げて想像、妄想してみるのだ。

大人になると居酒屋などで、自分は自炊派か外食派なのか、それともレトルトなどに頼る派なのかという議論になることもある。自炊だから偉いとか、外食だから手抜きだとかそうしたことではない。ただ大きな違いは自炊だと食べるまでそして食べた後のプロセスが必ず存在しているということ、つまりは何かしらのストーリーを纏っているということなのだ。


そんなことを思い起こさせてくれたのは、本書『湯気を食べる』。

幅広い分野で活躍する注目の作家・くどうれいんによる「食べること」にまつわるエッセイ集。「オレンジページ」の人気連載と河北新報での東北エッセイ連載に書き下ろしを多数加えた、心にひびく48編が一冊にまとまっている。

こうした媒体に寄稿している方なのだから、さぞかし“リア充”のエッセイなのだろうと訝しむ方もいるかもしれない。けれど、そんな心配はご無用だ。そこに描かれているのは、どこにでもある日常の食をめぐる物語。字面を辿っていると、くどうさんの話なのか、自分の話なのか錯覚しさえしてくるから面白い。それはどんな家にもあるキッチン、台所、いやここでは厨と表現した方がいいくらいの温もりを感じることができるだろう。

そう、料理を作っている鍋、フライパンなどから湯気が立つように。



<目次>

【第一章】湯気を食べる

湯気を食べる

ディル?

それはまかない

南国の王様

愛妻サンド

アイスよわたしを追いかけて

福岡のうどん

鍋つゆ・ポテトチップス

棚に檸檬

白いさすまた

すいかのサラダ

くわず女房

ぶんぶん

庭サラダバー

手作りマヨネーズ

おどろきの南蛮漬け

かに玉ごはん

いい海苔

すだち

寿司はファストフード

シェーキーズってすばらしい

ピザは円グラフ

醤油はいずれなくなる


【第二章】風を飲む

萩の月

ほや

菊のおひたしと天ぷら

せり鍋

わかめ

うーめん

笹かまぼこ

お米は貰うもの

きりたんぽ

たらきく

風を飲む


【第三章】自炊は調律

自炊は調律

たまご丼

パン蒸し

好きな食べもの

献立は大行列

つくりおけぬ

ねぎとろ

ナッツと言いたかった

柿ピーの短刀

自炊の緑白黒赤

くる

スナップえんどう

渡したいわたし

お花見弁当


おわりに

初出リスト


くどうれいん

作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身。中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。

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