建築と利他 / 著者・堀部安嗣、中島岳志 / ミシマ社
建築のあいだの道
近しい人にしか言ってはいなかったけれど、最近新居を建てた。
建てたといっても自分で何か事をなしたということではなく、強いていえばウッドデッキの塗装や最後に床で使った無垢の唐松材の塗装をしたくらいだろうか。
けれど今振り返ってみると、建築物をつくるという一連のプロセスの中において印象に残っている、もしくはこころに残っていることはやはりプランニングの時だろう。
一生に一度あるか無いかという建物の建築をするということに施主という立場で実際にプランニングをし始めてから着工までおよそ1年ほどかかることになった。月に一度のMTGだったので計約12回ほど設計・施工をお願いした地元の工務店さんたちと一緒に考えていく時間がとても面白かった。
施主としてこうしたい、ああしたいというのは多かれ少なかれあったのだが、そういったことはあくまでレイヤーの低い話、ディテールの話であったのだということをこのMTGを回を重ねるごとに考えさせられた。そもそも風景の中に建築物が建つということは風景を変えてしまうことになり得てしまう。だから、どうしたらその風景と調和が取れ、そしてその調和の中で快適に過ごすことができるのかということを今まで世界や日本を旅して見てきた経験や趣向をもとに、互いの視点を交差させるべく対話を重ねていったのだった。工務店の設計士の方たちはそうした風景を俯瞰して見て眺めていたのかもしれない。
それは建築家の堀部安嗣さんと東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授の中島岳志さんが共著の対談本として出された本書『建築と利他』の中で、二人の対話の中でも語られていたことでもあり、やっぱりそうなのかと再度腑に落ちたのだ。
その中で堀部さんは、建築には霊性があり、その土地、その風土であるべき形、配置などが自ずから決まってくる、と語っている。建築と風景のあいだには風があり光があり、水があり、そして土がある。建築家や設計士はそうした建築と〇〇のあいだをどう考えカタチにしていくかということが主体となるもの以外への利他性を持った思考にも繋がってくるのでは無いかと“利他”を研究する中島さんが切り込んでいく展開なのだ。
こうした建築家が普段語ることのない、建築への眼差しや設計図面として落とし込まれるまでのフワフワと漂っている何かを、”利他”というトピックについて研究されている中島さんが問いを立てて二人が対話をしていくことで現出させてくれているのがこの一冊なのだ。
建築に興味がある方はもちろん、現在設計中の方、これから家を建てようと考えている方にはぜひ手にしてもらいたい一冊。きっと建築のあいだにある道が見えてくるだろう。
「いのち」と響き合う「住まい」へ
土、光、風、生き物たち、歴史、記憶…
その土地に「あるもの」が活きる設計は、いかにして可能か。
近代の「建築」を未来に向け更新する、画期的対話。
――本文より――
堀部:
アーキテクチャーを正確に訳せば、「何とか道」ではないか、という話なんです。茶道、華道、柔道、武士道のような。そうなると建築の見え方が変わってくると思うんですね。
中島:
人間の「自力」を自然に押しつける産物になっていってしまっているのが、現在の建築かもしれません。おそらく堀部さんは、その真逆の方向を向いて建築を進めていこうとされる。
<目次>
第1章 土木に宿る救済思想
第2章 パッシブデザインと利他
第3章 住まいの重心を下げる
第4章 建築という「道」
第5章 未来のために建築ができること
堀部安嗣
1967年、神奈川県横浜市生まれ。建築家、放送大学教授。筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業。益子アトリエにて益子義弘に師事したのち、1994年、堀部安嗣建築設計事務所を設立。2002年、〈牛久のギャラリー〉で吉岡賞を受賞。2016年、〈竹林寺納骨堂〉で日本建築学会賞(作品)を受賞。2020年、〈立ち去りがたい建築〉で毎日デザイン賞を受賞。主な著書に『建築を気持ちで考える』『住まいの基本を考える』などがある。
中島岳志
1975年、大阪生まれ。北海道大学大学院准教授を経て、東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『思いがけず利他』『保守のヒント』『保守と立憲』、共著に『料理と利他』『ええかげん論』『現代の超克』、編著に『RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?』『RITA MAGAZINE 2 死者とテクノロジー』などがある。