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羽のあるもの

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羽あるもの / 著者・吉田篤弘 / 平凡社



夜伽一巻




密かに楽しみにしていることは誰しも一つや二つあると思います。他の人にとってはなんてことのないことですが、当の本人にとっては心躍ることなのです。

わたしたはというと、年に一度、主に年末時期に家族で山奥にある温泉宿に泊まってその一年を労うのですが、そこの本の蔵書が特別にすごく、その蔵書を全て読もうものなら、人生の大半が終わってしまうのではないかと思うような量の本が宿の至る所に散りばめられています。その中で密かな楽しみにとしていることが家族が寝静まった頃に、信州・上田をメインにした東信エリアの民話をまとめた本を読むこと。そんなの家で読めばいいじゃないかと思われるかと思いますが、浴衣を身に纏い、静かな畳の空間で読む民話は、幼い頃祖母に絵本を読み聞かせてもらったことを思い出すがごとく、その内容を全身で味わえるようでとても好きなのです。


さて、本書『羽のあるもの』は小説家で装幀家・吉田篤弘さんの新境地となる昔話風のタッチで描かれた夜伽が一冊にまとめられています。本書のあとがきにも触れられていますが、あえて古い言い回しを文中に使っていたりするので、一見とっつきにくそうに思いますが、そこは吉田さんのなせる業、読み進めているうちに、その言い回しを含めて目の前に情景が再現されアニメーションを追っているような感覚となっていきます。


いにしえより伝え聞く羽あるものをめぐる綺譚。

寝る前に一つの夜伽を読めばぐっすりと眠れそうな一冊です。



吉田篤弘
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作と装幀の仕事を手がけている。

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