めぐりながれるものの人類学 / 著者・石井美保 / 青土社
広い世界の代弁者
信州は広い。
移住して4年目にもかかわらず信州の主要エリアはともかくとして、他の場所にはまだ足を運べていない。ものの本によれば長野市を中心とした北信エリア、松本を中心とした中信エリア、私たちの拠点にもなっている東信エリア、そして静岡県に接する南信エリアの大きく4つのエリアに分かれているようだが、天候や気候なども全くと言っていいほど異なる。古くは方言なども異なっていたようで、言語が異なってくるのであれば思考やそこから湧き上がってくる風習などもそれぞれの違いという名の彩りがあり、今でもその片鱗はあらゆるところで散見できるはずだ。
ひとつの県でもそれくらい違いがあるのであれば、その視点を日本や世界へと広げていけばまだ私たちが知らない文化や風習などを見てとることが容易だということは想像できるのではないだろうか。
フィールドワークで日本や世界を旅した内容を書き下ろした文化人類学者の石井美保さん著の『めぐりながれるものの人類学』を一読すればそれは実感へと変わるはずだ。
私たちが知った気になっている世界というものは、ごくわずかな片鱗であって、物理的な世界としても、概念の世界としても、それはとても広いということが理解できる。
学界の気鋭が書き下した27の文章は、タンザニア、ガーナ、インドから、60年安保の水俣、京都大学の「立て看」撤去問題まで、時間と空間を越えてめぐりながれる。
異なっていながら同じものに満ち、分かたれていながらつながっている私たちの生のありようを鮮やかに描き出す様は、まさしく世界の代弁者なのだろう。
広い世界を覗いて見れば、新たな視点が得られることだろう。
<目次>
「人」からの遊離
小人との邂逅
水をめぐるはなし
循環するモノ
道の誘惑
異形の者たち
鳥の眼と虫の眼
ふたつの問い
科学の詩学へ
敷居と金槌フェティッシュをめぐる寓話
隅っこの力
まなざしの交錯と誘惑
現実以前
流転の底で
Since it must be so
世話とセワー
ささやかで具体的なこと
台所の哲学
リベリア・キャンプ
追悼されえないもの
凧とエイジェンシー
島で
サブスタンスの分有
神話の樹
言霊たち
石井美保
1973年、大阪府生まれ。文化人類学者。北海道大学文学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。宗教実践や環境運動をテーマにタンザニア、ガーナ、インドで調査を行う。現在、京都大学人文科学研究所准教授。第14回日本学術振興会賞受賞(2017年)、第10回京都大学たちばな賞受賞(2018年)