大人の友情 / 著者・河合隼雄 / 朝日新聞社
友情とは
友達がいない。そういうと何か寂しい人間なのかと思われてしまうが、大人になってくると家族以外に毎日と言っていいほど顔を合わせたりするという学生時代のような間柄の人たちはめっきり減ってしまう。会社員であれば職場という人間関係の中でそうしたものも育まれるのだろうが、どうしても実利に伴う利害関係がちらついてしまう。こと、自分たちのような自営業にとっては意識して外部との繋がりを作っていかないと中々友情を育む友達とまでいかないはずだ。
というのも、自分の性格的なこと、スタンス的なことで友達がいないように感じている節もある。学生時代から特定の誰かと連むことが苦手で広く浅く満遍なく誰とでも付き合いを重ねていたので、その日々の関係性が進学や進級などで変化していくとそれまでの人間関係が一旦リセットされる感覚があった。だからといって絶交とかそういうことではなく、たまに顔を合わせれば一緒に飯でも食べに行くし、帰り道が同じ方面だったら一緒に帰る。でもそれは友達かもしれないけれど、そこに友情があるのかと問われればクエスチョンマークが浮かぶだろう。
そんな取り留めのない話を、詩人の栗田脩さんに話した時、「いますよ、友人」と自分のことを指差しながらニコニコ微笑み戯けてみせた。その時は一瞬何を言っているのか理解できずぼんやりとしてしまったが、時間が経つに連れて、じわじわとなんだか嬉しさと温かいものが込み上げて来たのだった。
なんだ、こんな感じなのか友情とは。そんな瞬間だった。
さて、本書『大人の友情』は、こんな友情について説きほぐしてくれる一冊です。
あなたは友人の出世を喜べますか?
人はなぜ裏切るのでしょう?
夫婦、男女、そして上司と部下の友情とは?
人生を深く温かく支える「友情」を、臨床心理学の第一人者・河合隼雄さんが豊富な経験と古今東西の文学作品からときほぐす、大人のための画期的な友情論です。
SNSなどが広まり人との繋がりが容易になったけれど、人間関係が複雑になっている今だからこそ、読みたい一冊です。
<目次>
友だちが欲しい
友情を支えるもの
男女間に友情は成立するか
友人の出世を喜べるか
友人の死
「つきあい」は難しい
碁がたき・ポンユー
裏切り
友情と同性愛
茶呑み友だち
友情と贈りもの
境界を超える友情
河合隼雄
1928年兵庫県生まれ。臨床心理学者・心理療法家。京都大学理学部卒業。62~65年スイスのユング研究所に留学、日本人初のユング派精神分析家の資格を取得。京都大学教授、国際日本文化研究センター教授を歴任、2002年文化庁長官に就任。82年『昔話と日本人の心』で大佛次郎賞、88年『明恵夢を生きる』で新潮学芸賞受賞、95年紫綬褒章受章。07年7月逝去。