偶然の散歩 / 著者・森田真生 / ミシマ社
言葉という芸術の散歩
一度きりと永遠は、どうしてこんなににているのだろうか。
本書『偶然の散歩』はこの一文からはじまります。
京都の東山で独立研究者として数学について研究する森田真生さんが各種媒体に書いた子どもたちとの散歩の中で気づいたトピックについて書き下ろされたエッセイが一冊にまとめられている本です。
当たり前と考えられている日常生活のあれやこれや。それらを散歩するようなスピードで考え直すきっかけを与えてくれます。
森田さんが思考を表現した言葉選びがとても心地が良く、その言葉たちが読者であるわたしたちに歩みより一緒に散歩しているような感覚になることでしょう。
そして子どもたちの何気ない視点が、とても美しい瞬間への入り口になっていることがよく分かります。
森田さんは本書の中で「我々は言葉を生きている」ということを語っています。
ページをめくり言葉を読み進めていると、感覚として良い絵画などの芸術作品を眺めているような心持ちになってきます。
そうです。これはある種の言葉の芸術で、その感覚は一瞬のことなのですが、永遠にじんわりとこころの中を温かくしていくのです。
散歩道が景色の移り変わりを表現しているかのように、本書のデザインは異なる紙質やフォントを使っています。
読むとこころが穏やかになる、そんな一冊です。
おすすめです。
<目次>
――散歩に行こうよ
第一章 プロムナード 散歩へ/網/言葉を生きる/時差/転ぶ/数学の演奏会/「わかる」と「操る」/「アリになった数学者」/心が降り立つ/精進/役に立たない/数字の起源/未来の種/メタメディア/日本語の数学/生きがい/思い出す/メッセージ/読み、書き、数学/懐かしい場所/爽やかな風/学校の未来/得ることと手放すこと/「正しさ」の正しさ/偶然の散歩
第二章 偶然の家族
翁/二つの奇跡/生命/旅/家族/祖父へ
第三章 ともに歩く
ともにあること/じっとその場で/道草の記憶/遅々として、遠くまで/家は思い出/一冊の本/誰にもわからない未来へ/月食/生きる
――永遠の散歩
森田真生
1985年、東京都生まれ。独立研究者。京都東山の麓にある研究室を拠点に、研究・教育・執筆のかたわら、国内外で「数学の演奏会」や「数学ブックトーク」など、ライブ活動を行っている。2015年10月刊行のデビュー作『数学する身体』(新潮社)で第15回小林秀雄賞を受賞。他の著書に、『数学の贈り物』(ミシマ社)、『僕たちはどう生きるか』(集英社)、『計算する生命』(新潮社、第10回河合隼雄学芸賞)、絵本『アリになった数学者』(絵・脇坂克二/福音館書店)などがある。