生きるための表現手引き / 著者・渡邉康太郎 / NewsPicksパブリッシング
唯一無二の自分
2010年から10年間かけて北欧の国々を何度も旅をしてきた。洗練されたデザイン、時間経過を感じられる美しいヴィンテージ家具、整えられた街並み、ヒューマンスケールで最先端と昔からの流れを調和している都市計画などあらゆる観点で惹かれていたけれど、一番はそこで生きている人たちが魅力的だったということだ。
それは、憧れの対象、といったような著名なデザイナーや建築家という類の人々ではなく、街の中で歩いていたり自転車に乗っているような市井の人たちが活き活きと自分自身を生きているといったような光景や感覚を目の当たりにしたからだった。かたや自らの日々を省みてみると、日本社会という大きな目には見えない枠組みの中で「生かされている」、もしくは誤解を恐れずに言えば、「飼い慣らされている」という状態だということを北欧への旅を通してメタ的に考えるきっかけになったのだ。
では、どうして北欧の人々は自分自身を信じる、つまり自信を持って生きているのだろうかと考え、それを分析的ではなく、言葉や写真の間をとって自分で表現してみた集積が自費出版で発行していた「a quiet day」というマガジンだった。これがきっかけで自分自身がどのように生きていくのかということにフォーカスし、行動に移し表現していった結果が、面影 book&craftであり、自然農として形に表れてきた。表現することを恐れず、ただ自分たちの興味関心を生活レベルから考え表現し続けていったことで気づいたら大きい社会という枠組みで「生かされている」状態から、唯一無二の自分を「生きる」状態へと変わっていったのだった。
こうした表現することで、生きる態度がいつのまにか変わるということについてまとめたいるのが本書『生きるための表現手引き』だ。創作や表現に一歩踏み出したい人、生き方に迷いを感じている人に向けた、デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」コンテクスト・デザイナー・渡邉康太郎さんが記した一冊。
誰しもみんな、かつてはクレヨンの画家で、粘土の彫刻家で、前衛の作詞家・作曲家だった。とめどなく溢れる、自分だけの創作や表現の意欲を持っていた。
大人になって、それを続ける人も一部にいる。でもやめてしまう人が大半ではないだろうか。自らに備わる創造性を忘れ、自分は創造性とは縁がないと思ってしまう。日々の仕事は、簡単な自炊は、電話中の落書きは、友人との会話は、ちょっとしつこい調べ物は、大事な人への贈り物は、視点を変えればそれぞれ自分だけの小さな表現だということもできる。そしてその先には「誰しも、手を動かして自分らしい生き方を取り戻すことができる」と、渡邉さんは本書の中で語っている。
唯一無二の自分を「生きる」ための気づきを与えてくれる一冊。
さあ、一歩踏み出そう。
<目次>
まえがき──六等星の弱い光
第一章:手放す
- 表現を怖がらなくていい
- 職業でなくていい──生き方
- 経済で測らなくていい──お金に換算できないこと
- 重要なことでなくていい──とるにたらないこと
- 「生きのびる」でなくていい──「生きる」
- 普遍的でなくていい──個人的なこと
- 役に立たなくていい──好きなこと
- 表現とは
- 旅をするようにつくる
第二章:つくる
- 模倣する──オリジナリティは重要か?
- 引き継ぐ──個性を活かして独自のものを生む?
- 見方を変える──「つくる」と「つくらない」のあいだに線は引けるのか?
- 集める──クリエイティビティは重要か?
- 編み直す──「無」から「有」を生み出す?
- つくってもらう──個人の作家性はいつ生まれたのか?
- 仲間をつくる──個人の才能は重要か?
第三章:続ける
- 傷つき続ける
- プロがアマチュアに「勝てない」とき
- 「成長」の物語を超えて──下手でいい / つたなくていい
- 変化に目を向ける
最終章
- 自らが変わること
- 自らが変わらないこと
- 人はなぜ表現するのか
- 生死と記憶、ノイズ
あとがき──六等星との向き合い方
渡邉 康太郎
デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」コンテクスト・デザイナー。東北芸術工科大学客員教授。ポッドキャスト「超相対性理論」パーソナリティ。
1985年生まれ、慶應義塾大学環境情報学部卒業。使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することをうながす「コンテクストデザイン」を掲げる。ミッション・ビジョン策定からサービス立案まで牽引。主な仕事にイッセイ ミヤケとの「FLORIOGRAPHY」、北里研究所や日本経済新聞社、FM局J-WAVEのブランディング・ロゴデザインなどがある。同局「TAKRAM RADIO」のナビゲーター、慶應義塾大学SFC特別招聘教授、ドイツiF Design Awardや日本空間デザイン賞の審査員などを歴任。
2025年、生活者の声が集まる本屋「とつとつと」を共同創業。趣味は写真と茶道。


