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1フランの月

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1フランの月 / 著者・安西水丸 / 小学館



寄り道への憧れ



東京を離れ、信州・上田に移住をしてから、すっかりと寄り道というものをしなくなった気がします。車移動になったことがその大きな要因になっているような気がします。東京にいた頃であれば、移動はもっぱら電車と徒歩でなぜだかいままで住んでいた場所は最寄りの駅から15分から20分くらい離れた場所に住むことが多く、その帰り道などにわざと変な道を歩いたりして道草を食っていました。車移動になるとA地点からB地点への一方通行の移動になってしまい、仮に途中寄り道をしてみようと思いついたとしても、その寄り道する場所がまた次の目的地になるだけなので、結局A地点からB地点への移動のような動きになってしまうのです。旅もそうなのですが目的ありきが強すぎると、その道中やプロセスなどをこころから楽しむことができずに、自ずと偶発性にも出合うことも少なくなってくることでしょう。


さてそんな寄り道のことを思い起こさせてくれたのが、本書『1フランの月』でした。

イラストレーターで惜しくも2014年にこの世を去ってしまった安西水丸さんの幻の未発表小説がまとめられています。舞台はニューヨークからパリ、リスボン、マドリード、ローマへの道中。ヨーロッパ周りで日本に戻る道中の断片を描いているのですが、友人を訪ねたり旅先で出会った方の誘いに乗って行き先を変更したりとその旅の様子は寄り道そのもの。イラストレーターである主人公のモノローグと日本にいる恋人への手紙、そして現地でのさまざまな出会いがあたかも偶然性のような形で描かれています。

内容は劇的なことが起こるわけではないのですが、異国の風を行間から感じることができあたかも自分自身の旅の道中を俯瞰しているような感覚となっていきます。安西さんはイラストを描くときに水平線を大事にしていたそうです。この小説は安西さんにとっての日常生活と水平線で繋がれた旅なので感情移入しやすいのだなと思いました。


これまで日の目をみることのなかった幻の小説「1フランの月」(未完)を没後10年となる2024年春に初めて書籍化。「旅」をテーマにした未刊行エッセイ、イラスト、スケッチなどを加え、懐かしくも新しい、イラストレーター/作家・安西水丸の世界をこの一冊に凝縮されています。


ちょっとした非日常を味わえる一冊です。



<目次>
“小説”1フランの月
“エッセイ”ぼくの宝もの(マルセイユ港からフランス海軍の要塞島へ;フォークアート遍歴はアトランタからはじまった;ナイアガラの滝で買ったイヌイットの壁掛け ほか)
“旅のスケッチ”オン・ザ・ロード―on the road(アメリカン・ジャーニー―映画、フォークアート、そして懐かしい風景(一九九四~二〇〇〇年)
タヒチ―ゴーギャンを辿って(二〇〇四年))




安西水丸
19427月東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科造形卒業。電通、ADAC(NYのデザイン・スタジオ)、平凡社でADを経てフリーのイラストレーターとなる。朝日広告賞、毎日広告賞、紀文おいしいイラスト展特選、1987年日本グラフィック展年間作家優秀賞、キネマ旬報読者賞受賞。東京イラストレーターズソサエティ、日本グラフィックデザイン協会、東京タイポディレクターズクラブ、日本文芸家協会、日本ペンクラブ、各会員。著書に『アマリリス』『手のひらのトークン』『荒れた海辺』『丘の上』『アトランタの案山子・アラバマのワニ』『スケッチブックの一人旅』『青山へかえる夜』などがある。2014年、歿。

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