ポエトリー・ドッグス / 著者・斉藤倫 / 講談社
酒とチェーサーと詩と。
詩はやっぱりわからない。
物語調の文章ではなく、文章と文章の行間がやけに開いているから尚更のこと。読んでいるこちら側の解釈が入り込む余地が多すぎるので、意味などがぐらつくことがそう思わせるからなのでしょうか。
著者の主観と読者の客観、そして著者の客観と読者の主観。これらがシーソーゲームのようにあっちに行ったり、こっちに行ったりを繰り返し、やっぱり詩はわからないといつもなってしまうような気がします。
本書は、『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』や『新月の子どもたち』の著者でもある斉藤倫さんの著書。物語の舞台は、カクテルとつきだしとして『詩』を出す、“いぬ”がマスターのバー。
毎晩ハシゴ酒の最後に立ち寄るバーでこの“いぬ”のマスターとほろ酔いになりながらも、詩について考えていくお客さんとのやりとりが15夜と31篇の詩をめぐる短い物語がおさめられています。“いぬ”のマスターとのやりとりで『真実』、『感応』、『名前』など当たり前で深く考えた事柄について、詩を引き合いに出しながら、その輪郭を2人で、いや1人と1匹でなぞっていきます。
“いぬ”のマスターは一つの詩を立体的に提案してくれて、お客さんや読者である自分たちが解釈できるように促してくれているのですが、これが“いぬ”だから、人間たちが綴っている詩を客観的に見られるような仕組みになっているのだと感じました。
物語に出てくるお客さんは、次第に酒に酔っているのか詩に酔いしれているのか分からなくなってきている感じ、そしてその感覚にハマって足繁く通ってしまっている様子が伺えてきます。それは先に挙げた主観と客観が入り乱れるそれと似ているのかもしれません。
バーのような静かなBGMが流れる暗がりでページを捲りたくなるような一冊です。
おっと、一息入れるチェーサーもお忘れなく。
T・S・エリオット 吉岡 実 ガートルード・スタイン アメリカ・インディアンの口承詩 萩原朔太郎 ボードレール 杉本真維子 宮沢賢治 石原吉郎 ウォレス・スティーヴンズ 石牟礼道子 アルチュール・ランボー ……ほか全31篇の詩が収録。
斉藤倫
1969年生まれ。詩人。2004年、『手をふる 手をふる』(あざみ書房)でデビュー。14年、はじめての長篇物語『どろぼうのどろぼん』を発表。同作で第48回日本児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品として『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』、『さいごのゆうれい』(以上、福音館書店)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)。絵本に『えのないえほん』(絵 植田真/講談社)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵 くのまり/ブロンズ新社)。詩集に『さよなら、柩』(思潮社)など。また『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)に編集委員として関わる。