ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集 / 著者・斉藤倫 / 福音館書店
詩的なきみとぼくとの夏のあの日のやりとり
本を読んで涙が出そうになることは、ほとんどありませんでした。
この本を読むまでは。
本書のメインの登場人物は『きみ』と『ぼく』。
小学生の『きみ』と大人の『ぼく』の言葉の掛け合いから、『ぼく』が、『きみ』からの質問の答えやそのキッカケになるような詩を紹介していくというスタイルで物語は進んでいきます。
全20篇のエピソードの中に有名な詩やそこまでではない詩が織り込まれており、物語の文脈や『きみ』からの疑問でモヤモヤとしている頭を少し柔らかくする言葉が散りばめられています。
読みながらメモをした自分が感じ取ったことを少々。
「言葉はいつだって自由で軽やか」
「言葉の字面の意味はほんの一つ、言葉と言葉の間に本当の意味が隠れている」
「言葉にならないという感覚を言葉にしようとした、こころの跡が詩」
「過去と現在、そして未来をひとつにするものが、言葉」
などといったように詩を通しての言葉というものの理解が深まり、詩をどのように楽しむのかということなど、詩というものがとても身近になってくるような感じです。
『きみ』と『ぼく』とのやりとりの物語を読み進めていると、なんだか『きみ』がもうこの世にはいない、つまり死んでしまったあとに『ぼく』が頭の中で回想しているのかな、なんて思ってしまう感覚もありました。
さて、その真相は読んでみてのお楽しみということで、ここでは種は明かしませんが、最後の方になるに連れて何か胸の中がぎゅっとして、でも少し心が温まっていくような気がしてきます。
詩って面白いんですね。
<目次>
1.ことばのじゆう
2.いみなくない?
3.こころの、あと
4.いみの、手まえで
5.くりかえし、くりかえし
6.オノマトペのよる
7.きせつは、めぐらないで
8.ことばなきもの
9.ほんとのこと?
10.そして、ほんとうのこと
斉藤倫
1969年生まれ。詩人。2004年『手をふる 手をふる』(あざみ書房)でデビュー。14年『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)で長篇デビュー。同作で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』『クリスマスがちかづくと』(以上福音館書店)、『波うちぎわのシアン』(偕成社)、絵本『とうだい』(絵 小池アミイゴ/福音館書店)、『えのないえほん』(絵 植田真/講談社)詩集『さよなら、柩』(思潮社)、がある。また、『えーえんとくちから 笹井宏之作品集』(PARCO出版)に編集委員として関わる。
高野文子
1957年生まれ。漫画家。 看護師学校在学中に、同人誌へ漫画の発表を始める。 1982年に漫画家協会優秀賞、 2003年に手塚治虫文化賞を受賞。おもな作品に、作品集『絶対安全剃刀』(白泉社)、『るきさん』(筑摩書房) 、『棒がいっぽん』(マガジンハウス) 、『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』(講談社) 、『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)、絵本『しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん』(福音館書店)などがある。