新百姓 002 / 編集長・おぼけん、発酵人・施依依 / 一般社団法人新百姓
米は活力、そして日本の風景
信州に移住をしてきてから朝食がパンから米に変えた。
東京に住んでいた頃、実家で生活をしていた頃まで遡れば、30年以上朝食はパンが主流だった。むしろ朝食に米がでてくるようなものならば、怪しからんと唸り出すほどだった。けれど、信州に移住をしてからはなぜか米ではないとやっていられないのだ。
移住したのが2月の真冬だったということもあるだろう。
外気温がマイナスまで下がり室内もストーブを付けているとはいえ、寒い環境の中で自分のカラダを起こすのには、やっぱりパンだと心許なく、米を喰らった時に腹の底からみなぎるエネルギーは他に代え難いというのもあるのだが、そのエネルギーが湧いてくる生理現象のような感じが何故だか病みつきになってしまったのだ。
そんなこんなですっかりと朝食が米となり、メニューによっては朝昼晩に米を食べる時だって何だったらある。日々の生活にそれこそ必要不可欠なものになっているのだからこそ、新米の季節が一段と楽しみなのだ。
特にお店によく来てくださる木工作家の中沢さんの作る新米がいつも楽しみで、今年の出来の話や田んぼの水がどこからくるのかという話やそれを管理している謎のベテランのおっちゃんの話などは実際に手を動かし作物を作っている方でないと分かり得ない話が面白い。それに自分が自然農で作った野菜をお礼にお渡しすることも密かな楽しみだったりする。(今年はまだタイミングが合わずに渡せていないけれど渡す予定)自分たちがそれぞれに作ったものを互いに交換できるというこの上ない多幸感は、作る側になってみなければ決して味わうことはできないだろう。
そんな毎年の米づくりに変化が訪れているそう。それは最近の夏の高温期などによって今まで作れていたコシヒカリなどの品種の生長に変化が見られ、いずれ採れなくなってしまうのではないのかということを聞いた。その一つの変化は話をしている分には些細なことではあるけれど、それらの一つ一つが作り手にとっては、ジャブを打たれている感じとなり、時間が経てば経つほど効いてきてしまう。そんな状況が続けば数十年後には今見ている田園の景色が一変してしまうのではないのかと中沢さんは憂いていたのが印象的だった。
妻は移住してきてから地元の棚田の保全委員としてお手伝いをさせてもらっている。そこに集まる農家さんたちの話を聞くと、もっと米の価値が見直されてもいいのではないのかということが盛んに話題に挙がるそうだ。それは金銭的なものとしてというのもあるだろうが、私たち消費者が敬意をもっと表すべきなのだという意味にも感じられるのだ。それは栽培のプロセスを体験してみることや、米でなくとも何かの作物を作ることをやってみたり様々だと思う。そうした場所は探せば意外と出てくる。だからあとはあなたのやる気次第という訳なのだ。
前置きがだいぶ長くなったが、本書『新百姓』の002のテーマは『米をくう』を読んでこんなことや思いが溢れてきたのだった。
さて『新百姓』では、「なぜ人類はいまだに毎日を遊んで暮らせないのか?」
(Why can’t we be playful everyday?)を根底の問いに掲げています。
効率性や規模の拡大を最優先に追求する経済のあり方、
人間一人ひとりがそれに従順であるように求められる巨大な社会システム。
そういったものに疑問を持ち、それを単に敵として抗うのではなく、
その巨大なシステムすら遊び道具として活用する、
そんな新しい生き方を探究している人たちの
問いと実践の物語を紹介する雑誌です。
毎号、古来から人間が行ってきた根源的な営みを1つずつ特集テーマに掲げ、
その意味を深め、捉え直して転回することを試みます。
2号のテーマは、「米をくう」です。
便利で安定した現在の米供給システムは、ありがたいもの。
しかし、効率のみを重視するあまり、稲作から炊飯まで、「米をくう」営みの中に溢れていた
つくる喜びや楽しみも、失われてきたのではないでしょうか?
安定した米供給システムを土台にするからこそ、安心して、思いっきり「米をくう」で遊ぶ。
そんな新しい社会は、どうやったら実現できるのか?
そんな想いのもと、本号では、
『まぁまぁマガジン』編集長で文筆家の服部みれいさん、
『米の日本史』などで知られる稲作文化研究の第一人者・佐藤洋一郎さん、
『小さな田んぼでイネづくり』などの著者で、石垣島で稲作に取り組む笹村出さんをはじめ、
常識に囚われずに、文明、テクノロジー、文化、技と知恵の各視点から、
「米をくう」を探究してきた先輩方との対話を通じて、新しいものの見方、最先端の問い、創造の余白に触れて参りました。
読めば、お米を釜で焚いてみたくなる。
読めば、自分で田んぼをやってみたくなる。
読めば、炊きたてのご飯がいつもの何倍も愛おしくなる。
そんな一冊になっていると思います。
発酵部数|8,888冊限定、全てに手作業でシリアルナンバー打刻
定 価|3,150円(税込)
(=米サイコウ!)
判 型|B5変形判
頁 数|254P(フルカラー)
<関連書籍>
新百姓宣言 / 著者・おぼけん(渡邉賢太郎・雑誌『新百姓』編集長) / ている舎
新百姓 001(水をのむ) / 編集長・おぼけん、発酵人・施依依 / 一般社団法人新百姓