建築を考える / 著者・ペーター・ツムトア、訳・鈴木 仁子、口絵写真・杉本博司(Architectureより3点)、ブックデザイン・葛西薫 / みすず書房
詩的な建築論 - 自然との調和、過去と未来との対話 -
スイスの建築家・ペーター・ツムトアがいかにして建築というものを捉えているかということをまとめた一冊です。
以下の目次の内容を見てもらえると分かりますが、小難しい建築論というよりは、感覚や記憶をどのようにカタチあるものとして表現していくかということが、ツムトアが大切にしている建築のポイントなのだということが分かります。
本書の前半では、古い記憶や感覚的な体験をどう建築に反映させるのかという過去を振り返り、未来をどう作るのかということを自身の記憶と想像と対話するかのように語られています。後半のチャプター『風景のなかの光』の部分では、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』なども引用されており、インターネットでペーター・ツムトア(日本では、『ピーター・ズントー』名でよく知られている)で検索してみると、彼の建築には日本の建築の光と影の取り入れ方など、感覚的な共通点がとても多いことが分かるかと思います。
また本書の帯で工業デザイナーの深澤直人氏が講評しているように、ツムトアの建築やその考えの中に自然との調和が一つの大きなテーマで、本書全体を通してツムトアが自然現象の感覚をどう捉えているのかという点が詩的な表現で語られているのが印象的です。(この部分は訳者の鈴木仁子さんの言葉選びのセンスが光る部分でもあります。)
そして、後著になる『空気感』にも共通することですが、装丁がとにかく美しいです。
長く手元に置いておきたくなる一冊です。
<目次>
物を見つめる
美しさの硬い芯
物への情熱
建築の身体
建築を教える、建築を学ぶ
美に形はあるか?
実在するものの魔術
風景のなかの光
建築と風景
ライス・ハウス
Peter Zumthor(ペーター・ツムトア)
1943年スイス、バーゼルの家具職人の家に生まれる。父の元で家具職人の修業後、バーゼルの工芸学校(Kunstgewerbeschule Basel)とニューヨークのプラット・インスティテュート(Pratt Institute)で建築とインダストリアルデザインを学ぶ。その後10年間、史跡保護の仕事に携わり、1979年に建築家として独立。以来、卓越した素材づかいでクラフト的に美しく、構造的にも優れた建築を生み出しつづけている。代表作に〈聖ベネディクト礼拝堂〉(1988)〈テルメ・ヴァルス〉(1996)〈ブレゲンツ美術館〉(1997)〈ブルーダー・クラウス野外礼拝堂〉(2007)がある。2008年に高松宮殿下記念世界文化賞、2009年にプリツカー賞受賞。2011年には「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2011」を手がけた。現在、スイス・グラウビュンデン州ハルデンシュタインのアトリエにて活動。