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柚木沙弥郎 旅の手帖: 中世美術に憧れて

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柚木沙弥郎 旅の手帖: 中世美術に憧れて / 著者・柚木沙弥郎 / 平凡社




こころの文章




文章を書く仕事を少なからず他の人たちよりも多くやっていますが、時たま自分の文章はこれで良いのかという葛藤が生まれてきます。字数稼ぎのように回りくどくこねくり回した言葉たちの羅列とシンプルにその時感じたものを言葉にするののどちらが伝わるのだろうかなど、その答えは時と場合によるのですが、言葉と文章は波と船のような関係のようでそのバランスと相性を吟味してどうしたら空気感も含めて伝わるのかということを考え続ける旅なのかもしれません。


さて、なぜこんな文章のことについて考えているのかと言いますと、本書『柚木沙弥郎 旅の手帖: 中世美術に憧れて』におさめられている言葉が著者の柚木沙弥郎のこころの言葉そのものだったからなのです。

本書の内容はタイトル通り旅の手帖、旅行記がまとまっています。舞台は1967年、ヨーロッパの中世美術への憧れを胸に、手帖とスケッチブックを片手に歩いた二ヶ月余のヨーロッパ旅行を染色家・柚木沙弥郎が日記のようにまとめています。ページをめくるたびに広がるのは、鋭い観察眼が捉えた異国の風景とかの地の人々との温かな交流が追体験できる内容となっています。

これがもう、文章を書く人の文章ではないのが特に良いのです。

言葉と言葉の間に漂う余韻が素晴らしいのです。

内容も面白いのですが、それよりなにより、こころに響く文章体験がここにあります。



「旅行では出来る範囲を充分楽しむこと。

それ以上は又今度に譲る。

生涯のやり方をこれと同じでやったらいい。

同時よりもその時々が大切であろう。

又今度!

それが出来なくても何ともない。

だから今を大切に」

―― 柚木沙弥郎

一九六七年四月一四日の日記より


※『柚木沙弥郎自選作品集 旅の歓び、旅の色彩』と合わせて手にしていただくと楽しめます。


<目次>

出発

エジプト

トルコ

ギリシャ

イタリア

スペイン

フランス

フィンランド

スウェーデン

デンマーク

帰国



柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)/著

1922 年、東京都生まれ。染色家。

民藝運動の提唱者、柳宗悦との出会いを機に、後の人間国宝となる染色工芸家・芹沢銈介に師事する。

20 代半ばより染色家として活動をはじめ、以来、70 年以上にわたり日本における型染めの第一人者として、現在に至るまで制作を続ける。

染色以外にも版画、絵本、立体、切り絵などさまざまな分野で制作を手がけ、これまでに国内外、多数の展覧会で作品を発表。

2008 年、86 歳のときに初となるパリでの個展を成功させ、以降3 年連続開催となる。

13年、世田谷美術館で「柚木沙弥郎 いのちの旗じるし」展を開催、

14 年にはフランス国立ギメ東洋美術館に作品が70 余点収蔵される。

18 年、日本民藝館で存命作家の個展は43 年ぶりという「柚木沙弥郎の染色 もようと色彩」を開催。

19 年、神奈川県立近代美術館 葉山館で「柚木沙弥郎の『鳥獣戯画』」、

20年、イデーショップにて新作リトグラフ展 “Swing Slow, Sweet Sammy !" を開催。同年、エースホテル京都のアートワークを手がけ話題を集める。

24年、死去した。101歳没。

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