谷内こうた 風のゆくえ / 著者・谷内 こうた、監修・ちひろ美術館 / 平凡社
幼いころの景色
谷内こうたという絵本作家を知ったのは、ごく最近のことでした。
信州・安曇野にある安曇野ちひろ美術館に家族で遊びに行ったミュージアムショップで彼の一冊の絵本を手にしたのです。安曇野ちひろ美術館に立ち寄った理由は、館内の芝生の広場が大きく、そこで息子と一緒に遊ぼうと思って立ち寄っただけだったので、本来の目的としては美術館が目的ではありませんでした。
ようやく一人でスタスタと色々なところに歩き回れる、走り回れるようになった息子は、はじめは広い芝生に怖じけづきなかなか走ったりしませんでした。
痺れを切らした私が大袈裟に走り回ると、それが面白かったのかようやく追いかけっこがはじまったのです。きっと息子の中で、言葉で理解するということよりも、こころが理解したのだと思います。真夏の炎天下でしたので、二人とも汗だくでへばってしまっていたので、美術館内で少し涼んでいこうということになり、ベビーカーに息子を乗せるとあっという間に寝てしまいました。
そうして一通り館内を見終わった後に今日の芝生で走り回った思い出として一冊の絵本を息子にプレゼントしようと思い、手に取ったのが谷内こうたの『なつのあさ』という絵本だったという訳です。
本書『谷内こうた 風のゆくえ』は、谷内こうた展の公式図録集として出版された一冊で、谷内こうたの絵本作品のダイジェストや本人のインタビューなどが一冊にまとまっています。『なつのあさ』に代表されるように優しく包んでくれるようなタッチの絵と短い文章でストーリー展開していく絵本の背景の考え方などが語られていて、谷内こうたの作品を一度でも見たことがある方はきっと楽しんでいただけるような一冊になっています。
またインタビューで彼は、『ものが分かる』ということについて頭で分かる『理解』と、こころで分かる『情解』が平安時代のころにはあったという話をされています。谷内こうたの表現は後者の『情解』なのでしょう。
『なつのあさ』を手にした息子。とても気に入ってくれて読んで!とよくせがまれます。
この中にある汽車の走る「ダッダシュシュ」という響きが特にお気に入りです。
きっと彼のこころがこのストーリーを『情解』したのでしょう。
芝生で走り回ったこの日のことを、いつの日か息子に伝えてあげたいと思います。
この谷内こうたの本と一緒に。
<目次>
絵本と出会う
ヨーロッパへ
ノルマンディー1
ノルマンディー2
インタビュー 風景の中に自分を置く(谷内こうた)
タブローとイラストレーション
風のゆくえ(谷内富代)
谷内こうた年譜
ブックリスト
作品リスト