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現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと

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現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと /著者・見田宗介 / 岩波新書



私たちの未来



自分の生き方を明確に変えた瞬間、ターニングポイントを覚えている。その瞬間は会社員というポジションから離脱した時だと感じる。それまでの人生は本書『現在社会はどこに向かうかーー高原の見晴らしを切り開くこと』でも再三言葉として出てくる、「未来のための現在」といった思考のもと生きてきた。
“良い”学校に行くために受験勉強をし、“良い”会社に行くために頑張って就職活動に勤しむ。この“良い”という価値ベクトルが完全に自分の価値に由るものではなく、存在の見えぬ“社会”にとっての“良い”に対してのアクションとしての現在というものが消費されている感覚だったのだろう。この思考は親から与えられたものなのかと思っていたけれど、その親の思考ももっと大きな社会の空気からそのように指し示されていたことなのだと今では冷静に理解できる。

だからといって会社を辞めていっていきなり、思考のシフトチェンジができた訳もなく、まずは他人を見る目を変えながら、それを反芻し自分でも実践してみるというある種の訓練のもと4、5年かけて解脱していってくれたように思う。
自分にとって最も効果的な方法としては旅だった。会社員をしている時代からだったが、北欧のクリエイターたちにインタビューを繰り返していく中で、彼ら彼女らが明確な未来に対しての希望はありつつも、それが固定化された未来ではなく、あくまで今ここを楽しんでいるという感覚、そして他人のそれを決して揶揄する態度や卑下することもしない空気感を言葉や表情を通して伝えてくれたのだった。北欧社会に感じられる生きやすさ、心地良さはきっと高福祉や先進的な教育制度、配慮された環境意識というメディアなどで注目されているそれではなく、それらの表出されたアウトプットのもっと根本的なベースになっている思考や態度の中に内包されているように感じるのだった。

さて、曲がり角に立つ現代社会は、そして人間の精神は、今後どのような方向に向かうだろうか。私たちはこの後の時代の見晴らしを、どのように切り開くことができるだろうか。未来が予知できる訳では無いのでここでの答えというものはないのだが、一つ言えることはしっかりと自分の人生を歩き、考え続けることに他ならないだろう。

その考えるきっかけとして本書『現在社会はどこに向かうかーー高原の見晴らしを切り開くこと』をおすすめしたい。斬新な理論構築と、新たなデータに基づく徹底した分析のもとに、巨大な問いに改めて正面から社会学者・見田宗介が応答する一冊。




<目次>

はじめに


序章 現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと

 1 未来の消失? 現代の矛盾

 2 生命曲線/歴史曲線.「現代」とはどういう時代か

 3 グローバル・システムの危機.あるいは球の幾何学――情報化/消費化社会の臨界

 4 世界の無限/世界の有限.軸の時代Ⅰ/軸の時代Ⅱ

 5 高原の見晴らしを切り開くこと


一章 脱高度成長期の精神変容――近代の矛盾の「解凍」

 1 脱高度成長期の精神変容.データと方法

 2 「近代家族」のシステム解体

 3 経済成長課題の完了.「保守化」

 4 魔術の再生.近代合理主義の外部に向かう触手たち

 5 〈自由〉〈平等〉対〈合理性〉.合理化圧力の解除,あるいは減圧

 6 近代の理念と原則の矛盾.封印と「解凍」.高原展望

 補1 合理性,非合理性,メタ合理性

 補2 生活スタイル,ファッション,消費行動――「選ばれた者」から「選ぶ者」へ


二章 ヨーロッパとアメリカの青年の変化

 1 ヨーロッパ価値観調査/世界価値観調査.データと方法

 2 幸福の高原と波乱

 3 「脱物質主義」

 4 共存の地平の模索

 5 共存の環としての仕事

 補 〈単純な至福〉


三章 ダニエルの問いの円環――歴史の二つの曲がり角


四章 生きるリアリティの解体と再生


五章 ロジスティック曲線について

 1 グローバリゼーションという前提――人間にとってのロジスティック曲線1

 2 一個体当たり資源消費量,環境破壊量の増大による加速化――人間にとってのロジスティック曲線2

 3 テ クノロジーによる環境容量の変更.弾力帯.「リスク社会」化.不可能性と不必要性――人間にとってのロジスティック曲線3


六章 高原の見晴らしを切り開くこと

 1 総理の不幸

 2 フリュギアの王

 3 三千年の夢と朝の光景

 補 欲望の相乗性


補章 世界を変える二つの方法

 1 ベルリンの壁.自由と魅力性による勝利.

 2 二〇世紀型革命の破綻から何を学ぶか.卵を内側から破る.

 3 胚芽をつくる.肯定する革命 positive radicalism.

 4 連鎖反応という力.一華開いて世界起こる.


あとがき




見田宗介

1937年東京に生まれる

現在―東京大学名誉教授

専攻―現代社会論,比較社会学,文化の社会学

著書―『時間の比較社会学』*(岩波現代文庫)/『宮沢賢治――存在の祭りの中へ』(岩波現代文庫)/『旅のノートから』*(岩波書店)/『現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来』(岩波新書)/『社会学入門―人間と社会の未来』(岩波新書)/『定本 見田宗介著作集』(全10 巻,岩波書店)/『定本 真木悠介著作集』*(全4 巻,岩波書店)

(*印は,真木悠介の筆名)

編集―『社会学事典』(共編)(弘文堂)/『岩波講座 現代社会学』(共編)(岩波書店)

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