都市で進化する生物たち / 著者・メノ・スヒルトハウゼン、訳・岸由二、小宮繁 / 草思社
『生物の進化』という言葉を聞くと、どこかの森やジャングル、はたまたガラパゴス諸島のような閉じられた大自然の中で独自の進化を遂げるというようなイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。
しかし、本書『都市で進化する生物たち』で論述されているのは、都市というある種限定された独自の環境に適応する形で生物が進化していることが語られています。
飛ばないタンポポの種。
化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚。
足が長くなったトカゲ。
この一冊を読んでみると都市と自然を比較して対立させ都市を否定し手付かずの大自然を回復していくことを善とするよくあるマスメディアの論調に「ちょっと待った!」をかけているような、そんな感じがしてきます。
それを後押ししてくれるキーワードが『適応』なのではないでしょうか。実はこの『適応』というものは、『観察』の動機付けにもなっており、進化やイマジネーション、さらにはクリエイティビティには欠かすことのできない要素の一つなのです。
都市で適応し進化する生物たちの『適応』を見過ごさず、じっくりと観察していくことが人類と自然、生物、環境と都市や自然を分け隔てることなく共生していく何かの手がかりになっていくのだろうと思います。
おっと!その前に!
「生物」と聞くと昆虫や植物、動物を連想しがちですが、その中に『人類』が含まれていることをお忘れなく。そしてそれらにとっては、都市も自然も分け隔てのない環境だともいうことも。
【目次】
- Chapter 1 生態系を自ら創り出す生物たち
- コレクション拡大に打った一手/アリの作る環境を利用するものたち/
- アリの社会に溶け込むトリック/様々な「生態系工学技術生物」
- Chapter 2 都市という生態工学技術の結晶
- 都市は巨大な「自然構築物」/人間の生態系工学技術の進化/
- 人間の生態系工学技術の進化/地球上の都市拡大の未来
- Chapter 3 繁華街の生態学
- シンガポールの都市生態系/都市部特有の気象現象/
- 島の環境的特異性/都会の観察者たち
- Chapter 4 都市の自然愛好家(ナチュラリスト)
- カラスVSハンターVSナチュラリスト/都市で死んだ動物たち/
- マックフルーリー・ハリネズミ/「周辺」の喪失/市井の自然愛好家の貢
- Chapter 5 「都会ずれ」したものたち
- 都市部で生物多様性を高める要因とは/避難先としての都市/
- 断片化する多様な環境
- Chapter 6 生物は先に都市街に対応している?
- 前適応とはなにか?/ライデン駅の様々な前適応/
- 前適応の型を探す/都市生活に向いている要因とは
- Chapter 7 進化にかかる時間はどれくらい?
- ダーウィンが返事を書かなかった手紙/ファーンの手紙が読まれなかった理由
- Chapter 8
- 生物学で最も有名なガ
- イモムシに生じた歴史的瞬間/「工業暗化」の発見/
- シモフリガの暗化解明史/実験への懐疑/暗化問題にケリをつける
- Chapter 9 いま、ここにある進化
- ホシムクドリの北米侵攻と進化/鳥の羽を短くさせるもの/
- 緑の島のたんぽぽの種は飛ばない?/都市のトカゲは足が長い?
- Chapter 10 都市生物の遺伝子はどこから来たのか
- 遺伝子から種の歴史をたどる/生息地の断片化/
- ニューヨークの公園に孤立したネズミ/
- 遺伝子プールの断片化の功罪/局所適応の可能性
- Chapter 11 汚染と進化
- 汚染に適応した魚/塩は生物の大敵/金属と黒いハト
- Chapter 12 巨大都市の輝く闇
- ロナウドの頬にとまるガ/なぜ虫は光を目指すのか/
- アランの数少ない実験例/光害を利用するクモ
- Chapter 13 それは本当に進化なのか?
- 軟らかい選択、硬い選択/進化の起源/
- 塩基配列でなく染色体の変化で形質が変わる
- Chapter 14 思いがけない出会い、思いがけない進化
- フランスの「淡水のシャチ」/一方向の進化、双方向の進化/
- どの生き物も繫がっている/たばこの吸い殻で巣をつくる鳥
- Chapter 15 生物たちの技術伝播
- クルミ割りに車を利用するカラス/牛乳瓶をめぐるカラとの格闘/
- 鳥は技術を仲間に伝えられるのか?/都市向きの生物に必要な才能/
- 恐怖心が少ないことも重要
- Chapter 16 都市の歌
- 沈黙のさんぽへ出発/歌声の変化は進化か学習か?/囀りと性選択
- Chapter 17 セックス・アンド・ザ・シティー
- 白い尾羽に隠された意味/都市では男らしくないほうがモテる?/
- 性選択を変化させる都市の要因
- Chapter 18 都市の種の分化
- ダーウィンの広告塔になった鳥/都市で種分化したクロウタドリ/
- クロウタドリのヨーロッパ進出/種分化の過程を追う/
- ニッチが進化の鍵/生体時計の変化/種分化は逆戻りもする
- Chapter 19 遠隔連携する世界
- シーボルト帰国の思わぬ副産物/均質化する世界の生態系/
- 都市も似通ってきている/人間も都市で進化する生物か?
- Chapter 20 ダーウィンとともに都市を設計する
- 天空の里山/都市設計と都市進化の間/
- 里山はいかにして存続可能なのか?/都市進化をいかに観察・記録するか
メノ・スヒルトハウゼン(Menno Schilthuizen)
1965年生まれ。オランダの進化生物学者、生態学者。ナチュラリス生物多様性センター(旧オランダ国立自然史博物館)のリサーチ・サイエンティスト、ライデン大学教授。著書に『ダーウィンの覗き穴:性的器官はいかに進化したか』(早川書房)などがある。