その世とこの世 / 著者・谷川俊太郎、ブレイディ みかこ、イラスト・奥村門土(モンドくん)/ 岩波書店
言葉の先の意味
日本語は不思議だと常々思います。そんなに英語が得意というわけではありませんが、英語から日本語に訳すことは割と容易なのに、日本語から英語に訳すことが難しいという言葉が度々あります。日本語には行間という考え方があり、その間の関係性から言葉で発している以上の意味を伝え、感じ取ってもらえることができ、さらに言葉を分解していくと一音一音発している言葉の響きにすら意味があります。それらは言霊というものなのでしょうが、そういったことを学んでいなかったとしても、ニュアンスとして私たち日本語を扱う人たちは感じ取ることができているはずなのです。
そういったことを本書『その世とこの世』を読んで改めて感じられました。内容は詩人・谷川俊太郎さんと英国在住のライター・ブレイディみかこさんの往復書簡になっているのですが、互いが言葉を扱うプロ同士なので、美しい言葉のラリーを観客席で見させてもらっているような心持ちになってきます。
そして本書のユニークさを表しているやり取りが、その二人のやり取りなのです。谷川俊太郎さんが手紙の最後に毎回詩を載せるのですが、ブレイディさんが次の手紙の冒頭でその詩の感想と解釈から自分の中に生まれたことについてライティングされています。その流れがなんとも自然で不思議とページを捲るスピードも増してくるのです。次の展開はどうなるのか気になる、あれです。
二人が織りなす言葉のラリー。
その言葉の先の意味を考えたくなり、何度も味わっていける一冊です。
<目次>
邪気の「あるとない」………ブレイディみかこ
萎れた花束………谷川俊太郎
Flowers in the Dustbin………ブレイディみかこ
その世………谷川俊太郎
青空………ブレイディみかこ
座標………谷川俊太郎
詩とビスケット………ブレイディみかこ
現場………谷川俊太郎
淫らな未来………ブレイディみかこ
気楽な現場………谷川俊太郎
秋には幽霊がよく似合う………ブレイディみかこ
幽霊とお化け………谷川俊太郎
ダンスも孤独もない世界………ブレイディみかこ
父母の書棚から………谷川俊太郎
謎の散りばめ方………ブレイディみかこ
笑いと臍の緒………谷川俊太郎
ウィーンと奈良………ブレイディみかこ
Brief Encounter………谷川俊太郎
谷川俊太郎
1931年東京生まれ。詩人。1952 年『二十億光年の孤独』でデビュー。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、作詞、脚本など幅広く作品を発表。読売文学賞、萩原朔太郎賞、三好達治賞、鮎川信夫賞、日本翻訳文化賞、日本レコード大賞作 詞賞ほか受賞多数。子どもが読んで楽しめる詩集から、先鋭的・実験的な詩集まで、幅広い作風をほこる。その詩 はさまざまな言語に訳されており,2022 年には詩の国際大会「ストルガ詩祭」の最高賞「金冠賞」が授与された。『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波文庫)、電子書籍オリジナル編集による「谷川俊太郎 ~これまでの詩・これからの詩~」(岩波書店、58 作リリース済み)など著書多数。
ブレイディみかこ
1965年福岡市生まれ。ライター。1996 年から英国ブライトン在住。保育士としての経験を書いた『子どもたちの 階級闘争──ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で新潮ドキュメント賞を受賞。『ぼくはイエロー でホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞、本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。 『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『女たちのテロル』(岩波書店)、『ブロークン・ブリテン に聞け Listen to Broken Britain』(講談社)、『他者の靴を履く──アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)、 『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など、著書多数。
奥村門土/モンドくん
2003年福岡市生まれ。画家。3歳頃より絵を描き始め、小学生になると週末には似顔絵屋さんとして活動をはじめる。 2014年には初の画集『モンドくん』(PARCO出版)発表。雑誌『ヨレヨレ』(ナナロク社)の表紙や谷川俊太郎との コラボ、瀬戸内寂聴『死に支度』(講談社)、鹿子裕文『へろへろ』『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)の装画など を手掛け、東京や台湾、シンガポールで個展を開催するなど、国内外で大きな注目を集めている。映画『ウィーアー リトルゾンビーズ』(2019 年) には俳優として出演。