九鬼周造「いきの構造」ビギナーズ 日本の思想 / 著者・九鬼周造、編集・大久保喬樹 / 角川ソフィア文庫
『いき』とは、生き様?
誰かから思わぬ計らいをしてもらった時に『お!いきだね〜。』と思ったり、その言葉をその相手に投げかけたことのある方もいるかと思います。何気なく使っている『いき』という言葉なのですが、学校などで(こういう類は道徳で習うのでしょうか)しっかりとその言葉自体の解説を受けたことも聞いたこともないはずです。けれど不思議なもので、こういう場面は『いき』だとか、その反面野暮だなというのはなんとなくの日本人の感覚として理解できるものがあります。
本書『いきの構造』の冒頭でも、『いき』というのは本来抽象的な思想とか理論には馴染まない微妙な感覚や感情から成り立っていると書かれており、この言葉や感覚のニュアンスは日本文化、特に江戸時代近辺の庶民の日常的な暮らしの中からの産物とも言われています。
カタチに見えない日本人の精神性という意味では、『武士道』や『茶道』などとも並ぶことが多いのですが、決定的に異なる部分としては、多くこの『いき』の所作や感覚が男女関係の間の中から生まれてきたという背景もあり、媚態(異性を惹きつけようとする態度)こそが言葉の感覚に色気を纏っている訳なのだということが本書で語られています。
また本書は九鬼周造の文章の他、章立ての最初に編集の大久保さんの解説が載っていることで内容の理解がスムーズにできるように構成されているのも嬉しいところです。
『クール』とも『おしゃれ』とも異なる『いき』。
『いき』を理解することがこれからの時代の助けになってきそうです。
<目次>
編者まえがき―『「いき」の構造』の現代訳にあたって
「いき」の構造
「いき」の内部構造
「いき」の関連概念
「いき」の身体的表現
「いき」の芸術的表現
九鬼周造の生涯と思想
九鬼周造
哲学者。東京生れ。東京帝国大学卒業。ヨーロッパに留学し、リッケルト、ベルクソン、ハイデッガーに学ぶ。帰国後に京大教授。実存哲学の立場から、日本的な精神構造や美の特質を論じる。
大久保喬樹
1946年生まれ。東京大学教養学部教養学科フランス科、同大学院比較文学比較文化修士課程を経て、フランス高等師範学校およびパリ第三大学に学ぶ。東京女子大学日本文学科教授。比較文学比較文化専攻