冒険心の歴史
小さな頃から地図を開いて道を辿るのがとても好きです。
自分の家には小学校高学年になるまで車を持っていなかったので、移動はもっぱら自転車。家族一列に並んで目的地まで走るのは、今考えるととても楽しかった思い出です。またある時、地図を開いていつものように道を辿りながら楽しんでいると親戚の叔父さんから『迷ってもどんな道でも必ずつながっている』というようなことを言われ、妙に納得しそしてなんだかすごく救われた気になってことを覚えています。
今では、スマートフォンのmapをひらけば自分の位置や方角なども分かり、そして行き先を入力すれば自動で案内してくれるとても便利な時代になりました。けれど、昔感じていた、本当に地図どおりに目的地に辿り着くのだろうか、という不安や期待などは感じられなくなってしまったのが少し残念でもあります。
本書『地図の物語』は、地図の成り立ちから様々な測量方法や目的に応じた地図について詳しく書かれた一冊になっています。今まで見たことも無いような地図のビジュアルと解説は、さすがナショナルジオグラフィック!という感じです。『物語』とタイトルがついていますが、もはや図鑑と言ってもよいのではないかという情報量です。
さて前半部分の古代の人たちが活用していた石に刻まれた地図などを見るにつけ、昔は自分の位置すらも曖昧だったはずで、獲物や食料などが採れる場所を忘れずに記憶しておくことは、生きて子孫を繋いでいくためには必要不可欠のことだったように感じ取れます。そうして自分の行動範囲が広がるに従ってその地図も次第に遠くまで広がっていったことが容易に想像できることでしょう。つまり地図の歴史は、行き先もわからぬ場所に飛び込んでいった先人たちの冒険心の記録でもあるのです。
手のひらの中に無限の地図を手に入れ便利になった今の時代。
人類は地図なき道を歩む、冒険心が必要なのかもしれません。
<目次>
第1章 われらが大地
初期の地図は居住者たちによって作られた
第2章 山海を越えて
旅や移動を収録した地図の数々
第3章 探検と領土拡大
「探検」がもたらした地図のさらなる拡大
第4章 世界観の変客
世紀を跨いだ遠方への旅が地図を完成に導いた
第5章 主題図の登場
題材・使用目的を絞った現代の地図
アン・ルーニー
ケンブリッジ大学トリニティカレッジで学位と博士号を取得。ヨーク大学、ケンブリッジ大学で教鞭をとったあと、著述業に転身。子供向けの科学読み物や科学史、テクノロジー、歴史、哲学の分野で多数の著作がある