気流の鳴る音―交響するコミューン / 著者・真木悠介 / 筑摩書房
人間とは、何なのか。
本書『気流の鳴る音―交響するコミューン』は、社会学者の真木悠介さんがメキシコ・インディオの「呪術師」の教えを、現代文明の呪縛から人々を解き放ち「今を生きる歓(よろこ)び」へと導く言葉として読み解くなど、社会学の領域を超えた一冊です。この呪術師のドン・ファンを主人公とする人類学者のC・カスタネダの4冊の著書に描かれた、〈異世界〉の感性と論理を手がかりに、人間ほんらいの生き方の発掘、人間解放の拠点を探る、コミューン構想のための比較社会学などが語られています。
正直に言うとなかなか難解な内容の部類になってくると思いますが、呪術師・ドンファンと人類学者のC・カスタネダのやりとりを辿っていると、現代人としてのカスタネダがドンファンの行動や考えに右往左往しながら気づきを得ている感覚が、読み手としてもハッと気付かされることがとても多い印象です。
特にP114辺りから描かれている内容では、昼食を摂るという何気ない行為から現代人が時間という架空の鎖に繋がれていることをドンファンによって気付かされているのが、ある意味痛快でした。確かに誰の指示と言うことではなく、12時になったらお腹の減り具合に関わらず自然と昼食を摂ろうとしてしまいますよね。
こういった無意識的な意識からどのように解放していくか。はたまた自分が囚われてしまっている“枠(=フレーム)”から如何に脱却できるのかということのヒントがこの一冊の中から見つけ出すことができるでしょう。
世界とは、何なのか。
人間とは、何なのか。
感覚の反応に耳を傾けて読み進めてみてください。
<目次>
気流の鳴る音(「共同体」のかなたへ、カラスの予言―人間主義の彼岸、「世界を止める」―“明晰の罠”からの解放 ほか)
旅のノートから(骨とまぼろし(メキシコ)、ファベーラの薔薇(ブラジル)、時間のない大陸(インド))
交響するコミューン(彩色の精神と脱色の精神―近代合理主義の逆説、色即是空と空即是色―透徹の極の転回、生きることと所有すること―コミューン主義とはなにか ほか)
真木悠介
本名は見田宗介。日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。著書に『現代社会の理論』、『時間の比較社会学』など