あなたの木陰 小さな森の薬草店 / 著者・萩尾 エリ子 / 扶桑社
こころに灯る言の葉
信州に移住してきて初めての5月の連休。以前から好きだった東山魁夷の絵画の題材にもなった茅野にある御射鹿池に車でショートトリップに出かけました。移住する前は車にもほとんど乗っていなかったので、私たちにとっては初と言っていいほどの遠出。ハンドルを握る手にも力が入ります。
途中、白樺湖近辺にあるクネクネとした上り坂も、軽自動車のシフトレバーのセカンドを使わずドライブに入れているもんだから、後続車は大渋滞。素人運転丸出しの苦い経験となったのです。
茅野に入ればこっちのもの。交通量もそこそこで無事に御射鹿池にも到着し、連休近辺でもダウンジャケットが必要なほどの冷たい空気の中で青い木々、そして水面に映るその青い木々がなんとも言えない美しさをまとっていました。
体はすっかり熱を奪われ、キンキンに冷えた体で運転席に入り、向かうはせっかくきたのだから茅野・蓼科にある蓼科ハーバルノート・シンプルズ。
松本方面に行った時にどこかのショップなどでハーブを売っているのは見かけたことがあったけれど、こうしてお店に尋ねるのは初ということでとてもワクワクしていたことを覚えています。到着すると山小屋のような店舗の周りに木漏れ日の落ちる木陰にガーデナーがハーブたちのお世話をしている姿が見えてきます。先ほどまでキンキンに冷えていましたが、このなんとも言えないハーブガーデンを見ていると不思議とこころが温まっていくようでした。
本書『あなたの木陰 小さな森の薬草店』を読むと、この時に感じた温まっていく感じを思い出すのです。蓼科ハーバルノート・シンプルズを主宰する萩尾エリ子さんが雑誌『天然生活』に2020年から2022年の間に書き下ろしていたエッセイをまとめた内容となっているのですが、萩尾さんが経験された自然との関わりやそうした記憶がランダムに並べられているのですが、不思議と共通する何かがそこにはあるのです。
本書の中でこう語られています。
本の中にも、暮らしの中にも、小さな旅は見つかるでしょう。自分の使える「ことば」をポケットに入れて温めておけば、いつでも楽しい、新しい旅に出掛ける用意は万端です。(『明日の旅は』より)
1日を頑張った最後にページを捲りたくなる、そんな一冊です。
<目次>
小道の先に
草の便りを
毎日食べる
ひととき、風がそよぐ
今日、この庭で
夏の待ち人
草の栞1 真夏のハーブティー・パンチ
軽々と花を摘む
思い出を便りに
夏の終わり、秋の入口
草の栞2 香りの花束手にのるほどの幸せを
りんごの木の物語
時の咲かせる花
しなやかに、まっすぐに
風に乗って、またいつか
まあ、いいじゃない
草の栞3 ハーブティーを自由に、自在に
小さな花咲いた
晴れて曇って風吹いて
静かに美しく降り積もり
ふわりと軽く
草の栞4 庭からの言葉
草の香りをもう一杯
秋の一日に
夢の続き
香りを繋いで
明日の旅は
草の栞5 物語の中へ
花と草との会話
やわらかな風を待って
萩尾エリ子
ハーバリスト。ナード・アロマテラピー協会認定アロマ・トレーナー。ハーブとアロマテラピーの専門店、蓼科ハーバルノート・シンプルズ(長野県茅野市:http://www.herbalnote.co.jp/ )主宰。日々をショップという場で過ごし、植物の豊かさを伝えることを喜びとする。
1976年、東京から蓼科に移り住む。園芸、料理、染色、陶芸、クラフトはすべて、八ヶ岳山麓の自然が師。開拓農家の家屋を借りて、ハーブショップ「蓼科ハーバルノート」を開く。'92年から'99年までレストランを併設、オープンキッチンでの優しく美しいランチは多くの人を魅了、庭から、野から、畑から、その日の食材をその日のメニューにし、大切に使うことを基本とする。同時に、十年かけて荒地から3,000坪のオーガニックガーデンを作る。
諏訪中央病院のハーブガーデン・プロデュースとグリーンボランティア(園芸ボランティア)を興し、現在も緩和ケア病棟のボランティアを加え、活動をしている。また、諏訪赤十字病院精神科では園芸作業とアロマケアを中心としたボランティアを行っている。
著書「香りの扉、草の椅子」(地球丸)、「八ヶ岳の食卓」(西海出版)、「ハーブ」「ハーブの図鑑」(池田書店)、監修「ハーブハンドブック」(池田書店)