この星で生きる理由 ー過去は新しく、未来はなつかしくー / 著者・佐治晴夫 / アノ二マ・スタジオ
宇宙の研究から理論物理学博士である佐治晴夫さんの著書は、科学とロマンがたくさん詰まっています。この『この星で生きる理由』という本の副題にある「過去は新しく、未来はなつかしく」もそんな雰囲気を感じさせるだけでなく、実は面影 book&craftでも過去と現在と未来は時系列として並んでいるのではなく、それぞれが有機的につながり合っているのでは、という考えなのでこの一文にとても親近感を覚えました。
さて本書の内容は、「人はなぜ旅をするのか?」「一日は短い?長い?」や「人間関係って実はシンプル?」といったような普遍的でかつ小さな子どもたちも疑問に思うようなけれど大人の都合でただ常識だと言われているような事柄について、科学や宇宙の視点で佐治さんが考え対話をしているような内容が77篇おさめられています。
2016年4月から2022年8月までの77ヶ月間、東急株式会社の広報誌『SALUS』の最終ページの『宇宙のカケラ』という連載を再編集・構成してまとめられているものなので科学といっても難しい言葉などが出てこないでひとつのトピックも2~3ページで完結します。ただ内容としては完結といっても明確な答えが出るわけではなく、あくまで読者の想像力の扉をちょっと開かれるような感覚に近いです。
佐治さんの言葉選びはとても柔らかく、本書を読んでいると深夜のラジオ人生相談で悩みや疑問を抱えた方に寄り添うような納得感が湧く一冊です。
ひとつひとつのトピックを読み終えた後は、あなたの想像力の扉の先から一筋の光が差し込んでくることでしょう。暗い宇宙の中で瞬く星々の輝きのように。
<目次>
はじめに
第一章 星のカケラと人間のカラダ
星を見ることで宇宙を体験できる?
流れ星、その美しさの奥に潜む脅威……
月がなかったら、音楽はなかった?
アポロ月面着陸五十周年によせて
宇宙研究って、人類の"生きがい"探しの旅?
先生と生徒がこだましてスタートした新生・新制中学
プラネタリウムに願いを込めて
自然界も人もゆらいでいる?
すべては風からはじまった?
地球は宇宙のなかの孤立系
コロナと地球と、それから私たち
"からだ"のぬくもりは太陽の一万倍!?
師走はどこから?
科学の芽と詩人の心
「病は気から」を考える
人が"人"であることを忘れないために
"私"は"私"ではない?
第二章 非線形な過去・現在・未来
過去も未来も現在?
宇宙に学ぶ人生の歩き方
宇宙カレンダーで考える
人はなぜ旅をするのか?
「これから」が「これまで」を決める?
算数が正してくれる日常感覚
一日は短い?長い?
イエスの降誕は夏だった?
「思えば叶う」ってほんと?
人生に適齢期ってある?
コイン投げに学ぶ長生きの方程式
混迷の時代を乗り切るために
老いて老いないということ
宇宙人っているのでしょうか?
一人称のあなたの人生には終わりがありません!
"食べる"ってどういうこと?
第三章 感動、共感、気立ての良い学び
日常のなかに非日常を見る
自然な学問の姿としてのリベラルアーツ
初めて出合う社会としての学校
デタラメな人間はいない?
"学び"は、いつも"なぜ?"のなかに
220億㎞の彼方からバッハが聞こえる!
大学の講義で初めて出会った巨匠たち
教えるとは希望を語ること
過保護、過干渉にならないために
じゃんけんが教えてくれる生き方
日本の文化に潜む√2の秘密
社会のなかの自分と自分のなかの社会
パイプオルガンと真昼の星と
過ぎ去りし八十六年、すべては"おもかげ"のなかに
青春とは心の若さである
第四章 音と言語が心に響く
なぜ口は顔の真ん中にないのでしょう?
音楽のルーツを訪ねて
見えない音の不思議な力
戦時下のプラネタリウムと宮沢賢治と
太平洋戦争とパイプオルガン
「敵機爆音集」とベートーヴェン
言葉はどのようにして生まれた?
"物語"が生み出す光と影
『桃太郎』民話は心の成長物語だった!
サンタはほんとにいるの?
宗教の起源を考える
月を見るあなたが月を存在させている?
一円玉に心を寄せて
すべては、実在と"面影"のはざまに
第五章 人はなぜ共存するのか
人間関係って実はシンプル?
若い方たちに伝えたいこと
個を生かし、個を結ぶ
自分の顔は見ることができない?
善悪の判断はどこに?
戦争に巻き込まれていった少女たち
カオス(混沌)に潜む光と影
働くことと生きるということ
女性が男性をつくった?
配偶者のいる方たちに伝えたいこと
男女の不思議
血縁関係の記憶は三代で消える?
今と昔の子育ての違いとは?
あなたは、昔、魚だった?
生きることは壮大な宇宙体験?
NHKラジオ深夜便「明日へのことば」~人生の星をつかみ続けて~
あとがき
佐治晴夫
1935年、東京生まれ。理学博士(理論物理学)。東京大学物性研究所、松下電器東京研究所を経て、玉川大学教授、県立宮城大学教授、鈴鹿短期大学学長を歴任、現在、同短期大学名誉学長。大阪音楽大学大学院客員教授。北海道・美宙(MISORA)天文台台長。量子論的無からの宇宙創生にかかわる“ゆらぎ"の理論研究で知られる。宇宙研究の成果を平和教育のためのリベラルアーツと位置づけた特別講義を全国的に展開している。日本文藝家協会所属。代表的著書として『14歳のための物理学』、『14歳のための時間論』、『14歳からの数学』、『14歳のための宇宙授業』、『マンガで読む14歳のための現代物理学と般若心経』、『男性復活!』(以上、春秋社)、『詩人のための宇宙授業』(JULA出版局)、『夢見る科学』(玉川大学出版部)、『量子は不確定性原理のゆりかごで宇宙の夢をみる』(トランスビュー)など、80冊を超える。