アイノとアルヴァ アアルト書簡集 / 著者・ヘイッキ・アアルト=アラネン、翻訳・上山 美保子 / 草思社
二人で一つのアアルト
夫婦で何かを営んでいると家のこととお店や事業のことなど話テーマによって二人の役割というものがコロコロと変化していくように思います。時には自分が先頭を切って走ることもありますが、時には相手が先頭を切っているのを伴走したり、ついていっているようには見せずに途中でバテないようにサポートしたりと、まさに二人三脚の関係性なのです。
そうしてその二人三脚を長年続けていると、ある仕事で一人で進めなくてはいけない状況になった時にそれまでの関係性と変わってしまうことに少しの不安、いやかなりの心配が胸の中に押し寄せてくるものなのだろうと感じています。『かけがえのない』と言葉で書くことは簡単ですが、目で見るこの言葉以上になくてはならない存在なのです。
さて、本書『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』は世界的な建築家でデザイナーのアアルト夫妻の関係性を残されている手紙から紐解いていくドキュメンタリー調の書簡集です。アイノとアルヴァの二人の孫に当たる孫であるヘイッキ・アアルト=アラネンがアルヴァが過ごした首都ヘルシンキ郊外にある『アアルトハウス』の屋根裏部屋の整理をしていた際に見つかった大量の手紙からアイノとアルヴァの間の心の交流を明らかにしています。
二人が活躍した20世紀初頭は、インターネットは愚か、電話ですら少し高価なコミュニケーション手段だったことは容易に想像できます。当時、相手に何かを伝える手段として手紙というものは、今の手紙とは比べ物にならないほど想いがこもったものだったのでしょう、本書で明かされている手紙で描かれた言葉を見ているとどれも美しく、互いが互いをこころから思いやり、慮っていることが分かり読んでいるこちらもとても温かい気持ちになっていくことでしょう。
本書の中の手紙のやり取りは、互いに出張などの際にその状況を相手に報告しているような描写が多く見受けられますが、手紙というものは報告書ではありませんので、やはり相手を慮る気持ちというものが言葉の行間から溢れ出てきているのがとても愛おしく、状況によっては少し物悲しくも感じられます。
まさにアアルト夫妻のドキュメンタリーを見ているような一冊です。
ヘイッキ・アアルト=アラネン
アイノ・アアルトとアルヴァ・アアルトの孫。母親がアアルト夫妻の長女にあたる。アルヴァ・アアルト財団副会長、アルテック社役員、アルヴァ・アアルト・アカデミー役員。
上山 美保子
東京生まれ。東海大学文学部北欧文学科卒業。大学在学中にフィンランド・トゥルク大学人文学部フィンランド語学科留学。現在、フィンランド大使館勤務。主な訳書は『フーさん』シリーズ(国書刊行会)、『フィンランド 虚像の森』(新泉社)。翻訳監修に『フィンランド・森の精霊と旅をする』(プロダクション・エイシア)がある。