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建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学

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建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学 / 著者・ユハニ・パッラスマー 、翻訳・百合田香織 / 草思社


 

感覚経験の建築



昔、スウェーデンのインテリア業界で活躍するスタイリスト・Tina Hellbergにインタビューをした際に、「わたしはこの世の中のありとあらゆるものを触れたいのよ。」と言っていたけれど、その言葉を言った後にミツバチを素手でガンガン触っているのが印象的過ぎて、その言葉の真意を聞くのをすっかり忘れてしまっていました。というよりもそんな忘れてしまっていたことすらも、忘れてしまっていたのです。この本書『建築と触覚』に出合うまでは。


本書は、すべてが視覚情報化され消費されていくかのような昨今、建築が本来もつ「五感を統合する」という役割を今こそ見直すべきである、と提唱する現代のフィンランドを代表する建築家、建築思想家のユハニ・パッラスマーによって、建築論というよりは、人間の感覚知をわかりやすく言語化してくれている一冊です。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のいわゆる五感というものは、最終的には人を覆っているある種の“膜”に外部からの刺激が伝わる、いわば触覚感覚によってわたしたちは世界を体験しているということが本書を読み進めていくと理解できるように思います。
顕著なのが、口腔の触覚なのではないのでしょうか。味覚ということではなく、口腔内の粘膜と世界が触れ合う触覚です。特に幼い息子を育てている今、彼は何かを手にするとまずなんでも口に入れたがるのです。それは赤ちゃんだった頃は目もあまり見えない状態で、外の世界と触れ合う機会はミルクなどを飲む口が一番身近で生命の維持という面でも一番彼としては確かな感覚だという認識の積み重ねによることなのでしょう。


パソコンやスマートフォンが生活に浸透し過ぎている現在。著者は本書の中でそれは立体感覚を失うことにつながることに警笛を鳴らしています。そして立体感覚を失うと存在するモノが非物質化してしまい、さらにはそれらすべてが非現実化してしまう恐れがあるとも言います。そういう意味でも建築は感覚を全方位的に刺激してくれるものなのでもう一度建築そのものから見直すべきなのでは無いのかと本書は提案しています。建築により経験されたその感覚は、あなたの記憶と想像のスイッチ、言い換えればあなたの『過去』と『未来』のスイッチを押すきっかけとなるのかもしれません。


建築に興味がなくとも、モノづくりに携わる方たちにぜひ一読してもらいたい感覚の教科書のような一冊です。



<目次>

前書き 「薄氷」スティーヴン・ホール

序論 世界に触れる


第一部

視覚と知識

視覚中心主義への批判

ナルシストの眼とニヒリストの眼

声の空間と視覚の空間

網膜の建築、立体感の喪失

視覚イメージとしての建築

物質性と時間

「アルベルティの窓」の拒絶

視覚と感覚の新たなバランス


第二部

身体中心

複数の感覚による経験

陰影の重要性

聴覚の親密さ

静寂、時間、孤独

匂いの空間

触覚の形状

石の味

筋肉と骨のイメージ

行為のイメージ

身体的同化

身体の模倣

記憶と想像の空間

多感覚の建築

建築の役割



ユハニ・パッラスマー
現代のフィンランドを代表する建築家、建築思想家。ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任。著作にThe Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture (John Wiley & Sons, 2009)The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture (John Wiley & Sons, 2011)などがある。

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