日本のデザイン ― 美意識がつくる未来 / 著者・原研哉 / 岩波新書
日本のエンライトメント
自分のことは自分が一番理解していないのかもしれません。それは偏に客観視することができなかったり、冷静に物事を判断することができないからでしょう。けれど、一度でもその自分というものの“枠”の外側から俯瞰して見る経験があればその視点を得たも同然。あれ、ちょっと待てよ、と自分自身について考えることができるようになると思います。
これは一個人でも、大きな括りとしての国という単位、つまり日本で考えてみても同じことです。そんなに幼い時ではありませんが、自分が初めて海外に出てみたのが大学四年の夏終わり。その時に初めて自分の中の深いところに、日本人という気質があることが再確認できましたし、そこから海外に行くごとに目新しいものを見る旅路のもう一方で同時に自分の心の中にある日本人らしさというものを大切に磨き上げていき、その理解が深まっていったように思います。“枠”の外側にいるからこそ、“内”を考えるきっかけになるのでしょう。
本書『日本のデザイン ― 美意識がつくる未来 』はまさしくそんな一冊です。
デザイナーの巨匠・原研哉さんが日本の過去のデザインを紐解き、日本の未来を語っていく内容が各分野ごとにまとめられています。本書は2011年の東日本大震災後に発行された本なのですが、今の現状とその当時の状況を振り返ってみても深いところの課題については何も変わっていないような気さえしてきます。そういった意味でも歴史的な転換点に立たされている今でもハッとさせられる視点を得られる一冊です。まさしくそれはエンライトメントという言葉は相応しいのかもしれません。
本書でも、デザインとはデザインされているということに気がつくところからスタートすると語られています。あなたの身の周りをもう一度見直してみて見れば新たな発見や気づきの種=日本のデザインが落ちているかもしれませんよ。
まさしく歴史的な転換点に立つ日本。
大震災を経てなおさら、経済・文化活動のあらゆる側面において根本的な変更をせまられるいま、この国に必要な「資源」とは何か?
マネーではなく、誇りと充足への道筋を―。
高度成長と爛熟経済のその後を見つめ続けてきた日本を代表するデザイナーが、未来への構想を提示する。
まさしく歴史的な転換点に立つ日本。大震災を経て、とりわけ経済・文化活動のあらゆる側面において根本的な変更をせまられる今、この国に必要な「資源」とは何か? マネーではなく、美を、幸福を、誇りを得るために、立ち戻るべきは「感受性」である──。つねに「ものづくり」の最先端をリードしてきた著者が、未来への構想を提示する。
<目次>
序―美意識は資源である
1 移動―デザインのプラットフォーム
2 シンプルとエンプティ―美意識の系譜
3 家―住の洗練
4 観光―文化の遺伝子
5 未来素材―「こと」のデザインとして
6 成長点―未来社会のデザイン
原研哉
一九五八年生まれ。デザイナー。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。世界各地を巡回し、広く影響を与えた「RE-DESIGN—日常の21世紀」をはじめ、「JAPAN CAR—飽和した世界のためのデザイン」、「HOUSE VISION」など既存の価値観を更新する展覧会を内外で多数展開している。
長野オリンピックの開・閉会式プログラムや愛知万博では、日本文化に深く根ざしたデザインを実践。二〇〇二年より無印良品のアートディレクターを務め、松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、ミキモト、ヤマト運輸、中国ののVIデザインなど、活動は領域を問わない。二〇〇八—〇九年に北京、上海で大規模な個展を開催。二〇一六年にミラノ・トリエンナーレで、アンドレア・ブランツィと「新・先史時代—一〇〇の動詞」展を開催し、人類史を道具と欲望の共進化として提示した。
また、外務省「JAPAN HOUSE」では総合プロデューサーを務め、日本文化を未来資源とする仕事に注力する。二〇一九年にウェブサイト「低空飛行—High Resolution Tour」を立ち上げ、独自の視点から日本紹介をはじめ、観光分野に新次元のアプローチを試みる。『デザインのデザイン』(岩波書店、二〇〇三年)、『DESIGNING DESIGN』(Lars Müller Publishers, 2007)、『白』(中央公論新社、二〇〇八年)、『日本のデザイン』(岩波新書、二〇一一年)、『白百』(中央公論新社、二〇一八年)など著書多数。