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パン屋の手紙―往復書簡でたどる設計依頼から建物完成まで

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パン屋の手紙―往復書簡でたどる設計依頼から建物完成まで / 著者・中村好文、神幸紀 / 筑摩書房



手紙という小さく確かな灯



手紙というメディアは面白い。

今では、メールや電話、さらにはオンラインで顔を見ながら、なんてコミュニケーション手段が多様化してきている中で、とてもアナログなメディアと言えるのではないでしょうか。けれど、そこが面白いところ。即効性はありませんが、アンカーのように相手の心に内容や想いがしっかりと留まってくれます。


本書は、北海道の真狩村でパン屋を営む神幸紀さんが、建築家の中村好文さんに一通の手紙を“贈る”ことから始まります。その内容はパン小屋の設計依頼。『字は体を表す』という言葉ではないですが、神さんの書かれる手紙の文章や言葉選びからパン職人として真摯にパンに向き合う姿勢などが一瞬で読み取れます。手紙という限られたフォーマットであるが故、このように人柄が滲み出てくるのがとても興味深いところです。

この一通の手紙から建築家の中村さんとパン職人の神さん、2人のプロフェッショナルの往復書簡から読む物語が始まっていきます。


やりとりは12通の往復、つまり24通の手紙の内容がこの本には編纂されています。文章では書かれていませんが、手紙と手紙の間のやりとりやそれぞれに過ごす時間の流れなどもじんわりと伝わってきます。

手紙と手紙の間には『時間』が隠されていて、2人で過ごす時間、それぞれに過ごす時間、この手紙の間が2人の想いを確かに繋いでくれているのだろうと感じました。



さて、あとがきや本書の帯に『普請』という言葉が使われています。

辞書によると『家を建築したり修理したりすること。』という意味があるそうですが、本来の意味は『相互扶助』の意味合いが大きく、そういった意味でもパン職人と建築家で活躍するフィールドは違えど、手紙の最後の方になると建築家とクライアントというよそよそしさは消え去り、互いの仕事観へのリスペクトが増していき、2人の関係性が仲間や家族などの同志になっていることを感じさせてくれます。


一冊読み終えると、そんな『普請』ができる相手が欲しくなることでしょう。

是非、紙とペンを用意して、意中の相手に手紙でも書いてみてはいかがでしょうか。


<目次>

はじめまして。北海道真狩村に住む神幸紀と申します…

「パン小屋」の設計、喜んでお引き受けします

私はパン窯にも神が宿るのだと信じずにはいられません

誠実な暮らしを丸ごと受け容れている、簡素極まりない住宅に目を瞠る思いでした

自分たちの住む所くらいは自分たちの手で作ってみたい、という好奇心のほうが強かったように思います

問題はその木造を縁の下で支えている基礎部分です

もう少しパン屋の仕事、一日の流れ、そういったことを話さなければと思っています

懸念していたとおり、納屋の基礎の補強が思いのほか難問題で…

新築のパン小屋でも、気負うことなく、今と変わらぬ気持ちで働けたらと願っています

建物から中村さんの「肉声」を聴いたような気がしています〔ほか〕


中村好文
1948年、千葉県生まれ。建築家。1972年、武蔵野美術大学建築学科卒業。宍道建築設計事務所勤務後、都立品川職業訓練校木工科で学ぶ。吉村順三設計事務所を経て、81年、設計事務所レミングハウスを設立。87年「三谷さんの家」で第1回吉岡賞受賞。93年「一連の住宅作品」で第18回吉田五十八賞特別賞を受賞


神幸紀
1974年、北海道真狩村に住むパン職人。「Boulangerie JIN」店主。もともとフレンチの職人であったが、パン作りに取りつかれ、パリの名店で修業。2004年に勤めていたフレンチの店を辞めてパン屋を開く決意を固め、自力でガレージキットを用いて住まいと店を作る

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