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買えない味

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買えない味 / 著者・平松洋子 / 筑摩書房



味な時間



最近何が豊かさなのかということを考えるタイミングがありました。
20代の頃は社会人になりある程度稼ぎが出てくると今までは行けなかった場所で食事をしたり、買い物をしたりとそういったことに贅沢だなと思いながらある種の満足感を得ていたように思います。
けれどそういった贅沢というものは不思議とその日寝て翌日起きたら果たして自分の身に起こったことだったのだろうかという実感が湧かないなんてこともしばしば。いわゆるそれが“消費”ということだったのだと思います。『消すことを費やす』と書くこの”消費”という言葉。こうして文字にしてみるとなかなか怖い響きを帯びているものです。

とはいえ、いくら自立した自由な生活をしているからといって、毎日好きなものを買って外食してなんてことはできないので、もちろん自炊もするのですが、そんな贅沢な日々の中での自炊はどこか自分のこころの句読点になっていて、客観的にみればプロが作る味には到底及ばないのですが、なんだかホッとする味なのです。

そんなことがさらに進み、今、信州・上田でやっているような野菜を自分の手で作るということからスタートすれば、もはやここでないと味わえない、買えない味になってくるのです。そしてそんな味はどこを探しても、どんなにお金を積んでも手に入れることはできない味なのです。



さて、そんなことは当たり前だよ、という方もいらっしゃるかと思いますが、それを改めて思い起こさせてくれたのが本書平松洋子さん著書の『買えない味』です。2002年1月から『dancyu』で連載されていた『台所の時間』を再編集された食のエッセイ集です。

『電話一本で、ネットでワンクリックで、老舗の鍋セットや地方の旬の野菜、海産物が手に入る時代に便利だけど、ホントにそれでいいのでしょうか?』と平松さんは問いかけます。今から20年以上前に紡がれた言葉が今とてもこころに響き、そして気づきが多い内容となっています。


もっと、日常を大事にしていきたいものです。

忙しない日々をおくっている方に是非手にしていただきたい一冊です。


<目次>
朝のお膳立て(箸置き―「戻る場所」をつくる;白いうつわ―磁器か、陶器か ほか)
買えない味(指―かぶりつく直前の味;レモン―ひとたらしの衝撃 ほか)
キレる力を!(注ぎ口―ぴしゃり、キレる力を;調理スプーン―もうひとつの掌 ほか)
機嫌のよい一日(買い物かご―無駄を省こう;木の弁当箱―柔軟な“うつわ”として ほか)




平松洋子

エッセイスト。東京女子大学卒業後、アジアを中心とした国内外の料理や食、生活文化を中心に取材、執筆を行っている。『買えない味』で、第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞

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