且坐喫茶 / 著者・いしいしんじ / 淡交社
茶の世界は、わからない。けれど一瞬何かが見える時がある。
この本は、作家・いしいしんじさんがお客となって茶事や茶会に参加し、亭主のやりとりや茶室で感じたことが綴られています。
タイトルの且坐喫茶(しゃざきっさ)とは、禅語で「且らく坐して茶を喫せよ」という、「まぁ、お座りになってお茶でも飲みなさいよ」の意味。
禅僧・牧師・茶人・現代画家・和菓子作家・陶芸家などを亭主とする一期一会の茶事の出来事が随筆集としてまとめられているのですが、それぞれのエピソードの合間に出てくる茶の先生を思い浮かべ、先生に投げかけてもらった言葉や所作を回想するところがとても心に響いてきます。
「いしいさんのお茶が、これからどう伸びていくか。」
「いしいさんのなかに、お茶はもう、はいっていますからね。」
こういった概念的で禅問答のような言葉の問いかけは、いしいさんの心の中で生き続けているということが文章からも感じ取れます。投げかけられたいしいさんも考え続けているでしょうが、この言葉を目にした読者のみなさんも、これはどういった感覚なのかを考えてみるとよりこの一冊を楽しんでいただけると思います。
茶室の空間の独特な時間の流れを、流石の言葉のプロであるいしいしんじさんが描写してくれているので、あたかも自分自身も同じ茶室に同席しているかのよう。
今という時間にフォーカスし、永遠を感じられる『茶』は『生』を感じる一つの作法なのかもしれません。
ぜひこの一冊から茶の世界を覗いてみてください。
【目次】
「真剣」な茶の湯の空間
伸びていく
交差する
終わる、始まる
うつわ
いま
そのひ
きわだつ
奏でる
待つ
祇園会
こぼれる
浮きあがる
燃えさかる湯
島のお茶
わかりません
いしいしんじ
1966年、大阪府生まれ。京都大学卒業。
2003年『麦ふみクーツェ』で第十八回坪田譲治文学賞を受賞。
2012年『ある一日』で第二十九回織田作之助賞を受賞。 他の著書に『ぶらんと乗り』『プラネタリウムのふたご」 「悪声』『モンテビデオ』など多数。