もののはずみ / 著者・堀江敏幸 / 小学館文庫
『物』心の大海原
この一冊は小説家の堀江敏幸さんがフランスで出会った「もの(=著者のいう『がらくた』)」の物語を綴ったエッセイです。
エッセイは毎回一つの『もの』に纏っている小咄といった感じだが、最初のエッセイ「多情「物」心」にも書かれているように、とても貴重な『もの』について語っている訳ではなく、「ほんのちょっとむかし」の製品、そして元の所有者の面影とも言える生活の匂いが漂い、そして設計者や製造者の顔が透けて見えるような『もの』を取りあげられながらまとめられています。
ページを捲ると、堀江さんが見つけたり手にした『もの』であるはずなのに、自分の幼少期に祖父の応接間で見た、あのオブジェクトととても似ているな、カタチや見た目は異なるけれど、構造や用途は一緒だなと自分の思い出ともリンクしてくるのがとても不思議な感覚になります。
『物』それ自体よりも背景にある様々な『モノ』を語ることを大切にしている堀江さんに一つの『物』に対しての洞察力や知識が大海原のように広がっていくのを楽しめます。簡単に『物』を探し当て、『モノ』を検索できてしまう時代だからこそ、もう一歩先の『物語』を見つける姿勢は何か気づきが得られそうです。
本書にまとめられた写真一枚とそれにまつわるエッセイの文章が、あなたの記憶をきっと呼び覚ましてくれることでしょう。
<目次>
多情「物」心
白壁に映ったエジプト
一一〇ボルトの誘惑
うぐいす色の筒
十九時五十九分の緊張
観覧車とペンギン
おまけ
いくさをしない動物たち
ランシャンタン
美しい木〔ほか〕
堀江敏幸
1964年、岐阜県生まれ。作家、早稲田大学教授。95年『郊外へ』でデビュー。『おぱらばん』で三島由紀夫賞、『熊の敷石』で芥川賞、「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、『雪沼とその周辺』で木山捷平文学賞、谷崎潤一郎賞、『河岸忘日抄』で読売文学賞を受賞