賢治と「星」を見る / 著者・渡部潤一 / NHK出版
星と物語
ある夏の夜の出来事。佐久の春日という場所に友人と食事に出向き、美味しい料理に舌鼓をし、夜も深くなりかけている頃に会もお開きになり駐車場に出てみると、辺りの夜空は一面の星空が広がっていました。生きてきた中でこれほどの満天の星空というものを体験したことがなかったので、我を忘れ夜ということを忘れて大きな声で驚きの声をあげてしまったことを覚えています。その日はそんな出来事があっただけではなく、子どもが妻のお腹の中に宿ったのではないのかとそういった予兆のようなものがあった日だったので、私の中では特に特別な思い出、いやその一連の流れが筋書きがある物語のように感じられてならなかったのです。
さて、本書『賢治と「星」を見る』は、言わずと知れた日本の詩人で童話作家。そしてその文学作品の物語の中では、星たちをモチーフにした表現などが多用されています。そうした賢治の文学表現とその中に使われている星たちについて、天文学者の渡部潤一さんが考察エッセイが一冊にまとまっています。渡部さんの表現を借りればその考察は思考の旅とも言えるもので、ページをめくっているとどんどんその内容に引き込まれ、気づくと賢治と同じ星空をみているのではと思ってくることでしょう。
賢治がいう『ほんとうのさいわい』はどこにあるのでしょうか。
ヒントは星々から連想された物語の中にあるのかもしれません。
星空を見ながら考えてみたくなる一冊です。
旅のはじめに
第一章 賢治の生きた時代へ
第二章 教師、宮沢賢治の星空
第三章 賢治、大地に根ざす
第四章 ふたたび石に向きあう
第五章 そして、宇宙へ
旅の終わりに―あとがきにかえて―
渡部潤一
天文学者、理学博士。東京大学、東京大学大学院を経て、東京大学東京天文台に入台。ハワイ大学研究員となり、すばる望遠鏡建設推進の一翼を担う。2006年に国際天文学連合の惑星定義委員として準惑星という新しいカテゴリーを誕生させ、冥王星をその座に据えるなど世界的に活躍。自然科学研究機構国立天文台副台長を経て、現在は、同天文台上席教授。総合研究大学院大学教授。1960年福島県生まれ。日本文藝家協会会員。