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Savoir&Faire 土

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Savoir&Faire 土 / 編集・エルメス財団 / 岩波書店


 

土の歴史は、人の歴史



私たち人間が初めて手で自発的に触れる素材は『土』なのではないでしょうか。みなさん自身の幼少期を振り返ってみてもらえば、いつぞやの砂場で『土』で作った泥団子を飽きもせずにひたすら何個も作ったり、その泥団子に木目の細かい砂をつけて、いかにサラサラの“完璧な”団子を作れるかを必死で取り組んだり、祖父母や両親の畑の『土』を手で触れてその感触や香りで遊んでいたのだろうと思います。生まれ育った環境は異なるのに、誰しもこころの中にそっとある記憶の断片なのではないでしょうか。もしかしたら、私たちのDNAの中にはそうした『土』の経験や記憶というものがあり、それらが私たちを無意識に惹きつけているのではと思ってしまうほどです。

歴史を紐解けば、古代文明の建築物はそのほとんどが土壁でできていることも数々の文献や遺跡群などを見れば一目瞭然です。そして、そうした幾多の文明が生まれ滅びゆく中で、建物という自分たちを覆う存在としての『土』を、自分たちが使う身近な器や皿の素材として『土』と捉え直したり、その道具と所作と組み合わせ、あらゆる時空間を見立てることで『茶道』という形のない美意識や文化、価値として昇華させてきたことの人の歩みの中には『土』が必ず関わっているということが伺えます。


さて、本書『Savoir&Faire 土』はファッションのハイブランドとして知られるエルメス、その財団であるエルメス財団が2014年からフランスでスタートした社会貢献プログラム「スキル・アカデミー」から生まれた『土』にフォーカスを当てた一冊です。

この「スキル・アカデミー」の最大の特徴は、自然素材に光を当て、素材に関わるスキル(=職人技術や手わざ)の伝承、拡張、普及を目指すところにあります。

フランスでは、第1回(2014年)は「木」、続く第2回以降は「土」(2015年)、「金属」(2017年)、「布」(2019年)、「ガラス」(2021年)、「石」(2023年)をテーマとして取り上げています。

それぞれの素材の組成や、素材を通じて培われた技術・文化などを様々な角度から検証するために、誰にでも開かれた講演会やワークショップ、より専門的なデザイナー、エンジニア、職人に向けたマスタークラスを実施、これらのプログラムでの実践は、翌年に素材名を冠する書籍として編纂されてきました。


こういったコンセプトの基、エルメスという世界的なブランドの様々な繋がりにより、アート・歴史・建築・民俗学などのプロフェッショナルが世界中から集められ、それぞれの視点から本書のテーマである『土』について編纂されています。


私たちの一番身近な素材である『土』。

この一冊を読めば、人がどのように『土』と歩んできたのかということが理解できるかと思います。

とても大切にしていきたい一冊です。


<目次>

 日本語版に寄せて……オリヴィエ・フルニエ


 土とやきもの……ユーグ・ジャケ

 黒い土と赤い土……赤坂憲雄


Ⅰ 土と生きる

 土壌の豊かさと持続可能な農業における粘土の役割……リディア&クロード・ブルギニョン

 生の土の建築──その様々な起源から今日まで……ティエリ・ジョフロワ

 土と左官から見た日本の建築史……多田君枝

 工業用セラミック分野での主な進歩……アンヌ・ルリッシュ

 ポートフォリオ《日本典型》……柴田敏雄


Ⅱ 土とつくる

 技術、欲望、分類、恐怖──土と向き合う現代日本のアート……バート・ウィンザー=タマキ

 コンテンポラリー・アートにおける土……ジル・A・ティベルギアン

 ミケル・バルセロ──地形図 アトリエ訪問……ユーグ・ジャケ

 土と手を合わせる……カネ利陶料

 ポートフォリオ《土と身体》


Ⅲ 土と動く、土は動かす

 釉薬……ジャン・ジレル

 西洋陶磁略史──そのいくつかの起源から18世紀末まで……クリスティーヌ・ジェルマン=ドナ

 アドリアン・デュブシェ国立磁器美術館コレクションでたどる磁器の歴史……セリーヌ・ポール

 技術と継承──海を越えて産地になるまで……三川内焼

 ポートフォリオ《記憶のかけら》……小川待子、高橋マナミ


 日本語版あとがき……説田礼子


 写真・図版クレジット

 著者・訳者略歴

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