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岡倉天心『茶の本』を読む

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岡倉天心『茶の本』を読む / 著者・若松英輔 / 岩波書店



Teaism、茶の道



農家の家であればご理解いただけるでしょうが、午前10時と午後3時ごろの日に2回、お茶の時間があるはずです。外作業で疲れたカラダは三度の飯ではカバーできないので間に捕食(糖分や塩分)と水分補給を目的として習慣化されたということを誰とはなしに聞いたことがあります。
東京での生活ではなかなか馴染みのかなったこの習慣は夏休みに祖父母の家に帰省した際などは健在でした。そんな時間があってか、昔から緑茶が大好きで今でも毎朝緑茶を飲まねば戦に出れぬが如き、日々の中でお茶とどう付き合っていくかということを割と真面目に考えていたりします。話が少しそれましたが、その祖父母での夏の時期のお茶の時間は従姉妹兄弟が集まっているのにも関わらず、なぜか静寂さがあったように感じます。子どもながらに茶を嗜む時間は静かにしなくてはと無意識に感じ取っていたのかもしれません。そしてこの経験としての記憶は、今毎朝習慣となっている私の『茶の道』と繋がっていることを仄かに感じるのです。


さて、本書『岡倉天心『茶の本』を読む』は気鋭の批評家の若松英輔さんが岡倉天心の『茶の本』を読み解いていく一冊になっています。内容は『茶の本』を、タゴール、ヴィヴェーカーナンダ、内村鑑三、井筒俊彦、山崎弁栄、九鬼周造ら人間の叡知を追究した東西の思想家との接点を探りながら読み解いています。そして『茶の本』を読み解いていく前に岡倉天心という人物について、その時代の社会や宗教、主義などの背景を掘り下げていくことからスタートしていきます。
本題の『茶の本』の部分については、岡倉が『茶の本』を書くにあたり参考にしていたであろう陸羽の『茶経』を比較で出しながら解説を加えていく部分が、なるほど圧巻でした。

この一冊を読んでみると『茶』についての本というのはなく、あるのはそれぞれの『茶』を取り巻く精神の系譜、つまり連なりをどう解釈していくかということにあるのだと感じます。

原著の『茶の本』は少し読むのに体力のいる本かと思いますが、こういった一緒に読み解く一冊があるとどのように解釈していけば良いのかという思考の整理にも繋がります。


明確に言語化されていない『茶』という世界。

茶の香が漂うように人それぞれの感覚で、この『茶の道』を後世に伝えていければと思う今日この頃です。



<目次>

第1章 岡倉天心とは誰か(不二一元の世界―ヴィヴェーカーナンダとの邂逅;天心の境涯と生涯;天心の言葉とコトバ)
第2章 『茶の本』を読む(茶道―美の宗教;茶―平和の使者;受肉する茶道;花と永遠;美の使徒・美の使命)
第3章 岡倉天心と東洋の霊性(霊性の宇宙―岡倉天心と山崎弁栄;さまざまなる「東洋」―岡倉天心と井筒俊彦;永遠の詩学―岡倉天心と九鬼周造)



若松英輔
1968年生まれ。批評家。慶應義塾大学文学部仏文科卒。2007年、「越知保夫とその時代」(『三田文学』)で三田文学新人賞評論部門当選

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