手塚治虫の山 / 著者・手塚治虫 / 山と渓谷社
人間と山の本性
山は二面性がある、と様々なアルピニストや山登りをする人たちの声からそんなことや伺えます。山頂に到達すれば人生観をも変えてしまうような絶景が望めるかと思えば、その山頂までの道中は高い山、険しい山であればあるほどに危険や過酷さが伴ってきます。この危険さと美しさを併せ持つ山の二面性が山が人を惹きつける一つの理由なのかもしれません。
こういった二面性は私たち人間も同じように思います。全くの善人がいないのと同じく全くの悪人もいない、そして善人の中にも悪人がいて、同時に悪人の中にも善人がいる。この『手塚治虫の山』を読むとそんなことを思わずにはいられなくなるでしょう。
本書は手塚治虫が山・動物・自然をテーマに描いた漫画アンソロジーがまとまっています。鉄腕アトムに代表されるように少しSF的な物語とイラストを得意としていると思う方も多いかと思いますが、実は手塚治虫は、山岳・自然を舞台とした漫画を数多く残しています。収録されている10編の漫画は、1959年~80年に発表されたもので、山・動物・自然をテーマにした作品たちに共通するのは、「生きる」ことの尊さです。人間はもとより、山にも動物にも、万物すべてを「生命」ととらえる、手塚治虫の強い思想が全編を通して伝わってきます。
時代を超えて、「いかに生きるか」という普遍的なメッセージ、そして人間と山の本性をぜひ10編の漫画から感じ取ってみてください。
<収録作品>
・「魔の山」
1972年8月6日『週刊少年サンデー』(小学館)掲載
・「山楝蛇」
1972年9月4日『漫画サンデー』増刊号(実業之日本社)掲載
・「山の彼方の空紅く」
1982年5月『ジャストコミック』(光文社)掲載
・「モモンガのムサ」
1971年11月22日『週刊少年ジャンプ』(集英社)
「ライオンブックス」第9話として掲載
・「モンモン山が泣いてるよ」
1979年1月『月刊少年ジャンプ』(集英社)掲載
・「ブラック・ジャック -昭和新山-」
1976年11月15日『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)
・「雪野郎」
1969年12月3日『少年チャンピオン』(秋田書店)
「ザ・クレーター」第9話として掲載
・「落盤」
1959年9月15日『X』第3号(鈴木出版)掲載
・「山太郎かえる」
1980年1月『月刊少年ジャンプ』(集英社)掲載
・「火の山」
1979年4月20日『ビッグゴールド』No.2(小学館)掲載
手塚治虫
1928年、大阪府豊中市生まれ。本名・治。大阪大学付属医学専門部を卒業後、医学博士号を取得。46年、『マアチャンの日記帳』でデビュー。翌年、ス トーリー漫画の単行本『新宝島』がベストセラーになり、注目される。以後、幅広い分野にわたる人気漫画を量産し、子どもたちに夢を与えつづけてきた。『ネ オ・ファウスト』など3作連載中の89年2月9日に胃ガンのため死去。無類の昆虫好きとして知られ、「オオムラサキを守る会」の理事や「日本昆虫倶楽部」 の初代会長を務めた